背景 |
顧客に言われるままに、個別開発していた。そんな開発プロセスを見直したい |
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課題 |
顧客の求める者に対してスペックを決めていくQFDのプロセスを導入しようと検討に着手 |
効果 |
QFD-TRIZを活用し、表面処理薬品を用いて新コンセプトを創出。セミアディティブ法における新技術を構築 |
企業は開発手法に何を求めるのか?
TRIZをはじめとした開発手法の導入を進める企業の責任者にお話を伺うインタビュー企画。
第2回目は、独自の表面処理技術で、アクセサリーや家電製品、コンピューター、自動車、さらには人工衛星やロケットまで、様々なユーザーに高性能・高品質なめっき用薬品を開発・提供している、メルテックス株式会社の田嶋さんにお話を伺いました。
同社がQFD/TRIZを導入するに至った経緯、そして『めっき』という化学を得意分野とする開発型の企業がどのようにして手法を適用するテーマを決定したのか・・・推進リーダーとしての思いを語っていただきました。
ご担当者の所属・役職を含み、本記事の内容は、2014年のインタビュー時の内容に基づきます
IDEA: 本日はお忙しい中ありがとうございます。
まずはメルテックスさんについて教えてください。
田嶋様: 従業員数は国内が約200名、アジアを中心とした海外のグループを含めますと約300名、その中で研究・開発に従事している技術者が50名以上います。
これは一般的な製造業としてはかなり高い比率になると思います。休むことなく最新の技術を取り入れ、時代の先端をゆくさまざまな『めっき技術』の開拓に努めています。
事業のもっとも大きな柱はやはり『めっき』に関連する技術であり製品ですね。
これは当社でめっき加工をすると言うわけではなく、めっきによる表面処理に使用する薬品・薬剤を開発してそれをお客様に納める・・というものになります。
IDEA: 研究・開発に対して積極的な社風、ということですね。
では次に、開発手法を導入するに至ったきかっけについてお聞かせ下さい。
田嶋様: 始まりは今から約4年前になるのですが、トップからの指示がそもそものきっかけでした。
実は最初に導入を考えていたのは、TRIZではなくQFDだったんです。
QFDというのは、お客さんの求めているものに対して、どういった形でスペックを決めていくか・・というプロセスになるわけですが、その当時の弊社の製品を見てみるとですね、プロセス云々どころかお客さんに言われるまま・・・いわゆる個別開発の要素が強く、私自身もそのやり方に対して疑問を持っていたんですよ。
そんな中トップからの指示を得ましたので、じゃあQFDに取り組んでみようか・・ということになったのですが、実はトップに言われたものをそのままやるっていうことに少し抵抗がありましてね(笑)。
そこで色々と調べているうちに辿り着いたのがコガネイ社さんの導入事例だったんですよ。当時はまだ半信半疑だったのですが、これは行けるんじゃないかなと感じましたね。
IDEA: コガネイ社の事例、QFD、TRIZ、タグチメソッドを活用した新製品開発ですね。
QFDだけでなくTRIZ、タグチメソッドもやってみよう、ということだったのでしょうか?
田嶋様: そうですね、いろいろと調べていく中で分かったことなのですが、QFDは“答え”を教えてくれる訳ではないんですね。
QE(タグチメソッド)も最適化という意味ではそれを持ち合わせていない・・・直感的でしたが、それぞれの手法の間を繋ぐものが抜けているという印象がありましてね、そんな時に目に留まったのがコガネイさんの導入事例であり、TRIZだったんですよ。
IDEA: 3手法の連携活用ですね。では具体的にどのように導入していくことを考えられたのでしょうか?
田嶋様: 私の中での手法導入というのは=弊社が抱える具体的なテーマでの実践だったのですが、そこに踏み切るまではかなりの回数のディスカッションが必要でした。結果から申し上げると半年以上の期間、議論を重ねましたね。
その議論の中心は、化学系あるいは材料系のメーカーが本当にTRIZを活用できるのか?という点ですね・・・実はこれについては正直なところ研修が始まってからも議論は続いていたんですよ。
IDEA: 議論を重ねた上での導入であったようですが、導入に踏み切った決定的な要素はなんだったのでしょうか?
田嶋様: やってみないと分からない、ということも勿論あったのですが、具体的な進め方において2つの可能性が見えたと言いますか、これならやれるんじゃないかという結論を得たというのが大きな理由ですね。
1つ目は課題の絞り込みについてなのですが、材料そのものの開発ではなく工程の改善であれば、比較的適用しやすいのではないか
という視点ですね。めっきという技術の特性上、化学反応を我々も完全に把握できているものではないんですね。1+1が必ずしも2になる訳ではない世界ですからね。
そういった意味で工程であれば、少なくともそういったリスクは避けられるだろうということですね。上流ではなくかなり下流で、ものを組み立てる・・アッセンブリに近いところであれば適用できるだろうという考えでしたね。具体的には弊社の中だけではなく、弊社の技術を導入されているお客さんの工程も含めてでの適用ということになりました。
もう一つはTRIZの考え方をできる限り自分たちの言葉に置き換えてみるという考え方ですね。例えば発明原理を使用する場合、分割原理や先取り作用原理といった考え方をイメージしやすいように変換する訳です。ただそういったケースは今までに無い訳ですから、実際のところ研修中もコンサルタントの先生と試行錯誤の繰り返しでしたね。
IDEA: それでは具体的な進め方について教えていただきたいのですが、まずはQFDそしてTRIZとどのようなメンバーに参加を促したのでしょうか?
田嶋様: 営業、マーケティング、技術といったメンバーに集まってもらいましたが、バランス的には営業を中心に進めましたね。
特に今回のテーマは、お客さんの工程の改善という位置づけでしたので、よりお客さんのことを知っているということが必要だったんですね。特に当社の場合、営業と言っても営業技術といって、技術的な知見を持ったグループがありますので、そのメンバーが中心になりました。
ただ、人数は少し多すぎましたね・・。これはQFDの次のステップ、TRIZになると特に顕著になりましたね。当社の場合は1テーマにつき10~15名ぐらいが参加していたのですが、発言しなくなるメンバーというのが出てくるんですね。やってみて分かったことですが、最適な人数は7~8名ぐらいではないかと思います。
IDEA: それでは次に成果について教えてください。
田嶋様: 正直なところここが一番難しいところですね。実際に手法が定着した後であれば、具体的な開発事例などでお話をできるのですが、現時点ではまだご紹介できるような具体的な成果は無いですね。ただ参加したメンバーの声としてはメンタル的な成果というんでしょうか、発想が広がった、行動のしかたが変わったというのはありましたね。
私の印象としては、場を共有することによって、強い連帯感とコミュニケーションが図れたように思いますし、ベテラン技術者から若手への技術の伝承、学習の場になったのは確かです。
もう一つ、これを成果と呼んで良いのか分かりませんが、難しさが分かったということですかね。これからそこをどうやって進めていけばいいかという問題意識が芽生えましたし、これはそのまま今後の課題ですね。また、全てが難しかった訳ではなく、QFDについてはかなり落とし込みが上手くいった感じはありますね。そういう意味では一番の山はやはりアイデア出しのフェーズでしたね。なかなかアイデアが出てこないんですよ。
本来、技術者や研究者はもっと自由に発想してもいいはずだと思うんですが、なかなかそこが膨らまない・・・ルーチン的な業務が多すぎるという課題が浮き彫りになったという感じですね。
それにTRIZを使うコツというのもありそうで、慣れが必要だということでしょうか。
IDEA: 可能性は感じたものの、定着まではまだまだ難しいといったところでしょうか。
当初、導入を起案されたトップの方はどのような感想を持たれたのでしょうか?
田嶋様: そうですね。導入検討時の指示はQFDの活用でしたので、この部分については、一定の評価を得られたのではないかと思います。実際にQFDについては根付いた・・とまではいかないものの、かなり具体的なところまで落とし込むことができましたからね。TRIZについては、評価はまだこれからですかね。
IDEA: これからという言葉が出ましたが、最後に今後の推進方針などをお聞かせいただけますか?
田嶋様: そうですね。やはり推進の柱となるようなリーダーには育ってもらいたいところですが、実際のところ、そういった人間は非常に忙しいというのがあって、簡単には進まないでしょうね。優秀な人間ほど奪い合うというのが私たち中小企業の現実ですからね。今後の方針としては、あせらず身の丈にあった推進ですね。技術者・研究者の個人的な成長を促しつつ、次のテーマに取り組むための体制を作っていきたいですね。
IDEA:本日はお忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。
これまで材料系メーカーによるTRIZ適用の具体例はほとんど報告されていませんでした。インタビューを通じて感じられたのは、化学材料の分野にTRIZを活用するに際してさまざまな工夫と試行錯誤が行われたことでした。
まだ製品化に向けた開発段階のために具体的な成果ということでは報告されていませんが、その中で研修を通じて、メンバーのメンタル面での成果を強調されていたのが印象に残ります。
多くの材料系メーカーにとって、この実施例は非常に参考になるのではないでしょうか。
(本内容は、2014年当時のものです)
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