i-Advanced TRIZ®
タグチメソッド(品質工学)は、新しい技術や製品を開発する際、それらが市場の様々な条件の下でも不具合や故障を起こさないように、その機能(働き)の安定性(ロバスト性)を上流の開発設計段階でしっかりと確保しようとする開発手法です。
製造時の工程条件の変動や、市場に出てからの製品の経年劣化、ユーザーが製品を使用する条件や環境の違いなど、システム(製品や技術)の機能(働き)に影響を与える要因(ノイズ)は様々です。
こうしたノイズは必ず存在します。良い品質とは、多様な条件の下でも安定して機能を発揮できることです。
納入材料や部品の要求スペックを上げたり、製造工程をもっと厳密に管理したり、ユーザーの使用条件を細かく指定したりすれば、ある程度ノイズを減らすことはできるでしょう。しかしそれらは、原価の上昇や、ユーザーに不便を強いる結果につながってしまいます。
では、製品や技術の機能(働き)に影響を与えるノイズがなくならないとすれば、どうすれば良いでしょう?
それであれば、最初からノイズの存在を開発や設計に取り込んで、ノイズがあっても、ばらつかずに安定して機能するように開発・設計すれば良い。最初から耐ノイズ性に優れた技術・製品を開発する・・・そのための手法が、タグチメソッド(品質工学)の「パラメータ設計(ロバスト設計)」です。
従来の品質管理と比較すると、品質管理(Quality Control)が「ノイズを管理し排除する」ことを主眼としていたのに対して、タグチメソッド(品質工学:Quality Engineering)は「ノイズを受け入れて、ノイズを前提として技術・製品の安定性を確保する」ことを主眼としている、と言えます。
品質管理ではコントロールできない、市場に出てからの環境の変化やユーザの使い方のばらつきまでを考慮して、技術や製品が「安定して機能する」ようにつくり込めるのもタグチメソッド(品質工学)の重要な点です。
タグチメソッド(品質工学)は、同じく直交表などを使うため、実験計画法と誤認されることがあります。
しかし、「ある結果に対する因子(パラメータ)の影響度を調べる」ことが目的の実験計画法と異なり、タグチメソッド(品質工学)は「影響度を調べるだけでなく、結果を改善するためにパラメータがどの水準(条件)を取ればいいのかを求める」という、設計の最適化、技術開発のための手法です。その点が、タグチメソッドと実験計画法の違いです。
開発の上流段階で、ロバスト性の高い(様々な条件下でも安定して機能を発揮できる)技術を確立させておくことで、その後の製品設計以降の工程での手戻りを削減し、さらに市場での不具合・故障も未然防止する。それが製品をつくるメーカーにとっても、製品を使用するユーザーにとっても利益になる(「損失を少なくする」)ということが、タグチメソッド(品質工学)の基本的な考え方です。
技術開発・製品設計や生産技術の開発段階でタグチメソッド(品質工学)を適用することで、大きく3つのメリットが得られます。
また、従来にはない新しい機能や、競合他社を圧倒するようなレベルの新技術開発を目指す際には、そうした革新的な技術であっても市場投入後に品質問題が起きないように安定性を合理的に検討し確保できます。イノベーションを目指す企業は、新しい顧客価値を生み出す独自技術の開発に、より積極的に取り組むことができるようになるでしょう。
タグチメソッドは日本では「品質工学」と呼ばれることが多いですが、元々米国の産業界で大きな成果を上げて有効性が認められたときに、その理論を構築した田口玄一博士(1924年~2012年)の名前を冠して「タグチメソッド」と名付けられ、今でも一般的に「タグチメソッド」と呼ばれています。
次の図は、従来の製品開発プロセスにおける品質問題とその対策について、よくある状況を示しています(皆さんの会社でも、今までにこういう経験がありませんか?)。
設計図面ができて試作品をつくって評価すると、いくつかの品質問題が顕在化した。その問題を潰すために設計を修正し、また試作評価すると、今度は別の問題があらわれた。こうした繰り返しがいつまでも終わらず、いわゆる”もぐら叩き“の状況に陥ってしまうこともあった。開発コストがかさみ、開発期間も延びて製品リリースが遅れてしまった。
あるいは市場にリリースした後に、思いもよらぬ不具合が発生した結果、顧客の信頼を損なってしまったり。対応コストと工数が膨大になって、その製品から得られるはずだった利益が圧迫されてしまった。
以前に比べると今はコンピューターシミュレーション技術が普及して、試作評価にかかるコストや時間が大きく削減できるようになりました。しかし、品質問題の対策がこの「設計~試作(シミュレーション)」段階で行われている本質はあまり変わっていません。
では、タグチメソッド(品質工学)を適用することで、この状況がどう変わるのでしょう? 次の図は、製品開発プロセスにおける、タグチメソッドを適用する狙いを示しています。
従来は試作段階で品質問題を潰していたのに対して、タグチメソッド(品質工学)を適用したプロセスでは、技術や製品を開発する段階で「機能の安定性」(様々な条件や環境の違いの下でも、技術や製品が「きちんと働く」)を予測し、技術や製品の安定性をその段階でつくり込むことを狙います。
試作評価以降の段階に先送りしていた「品質の確保」を、開発設計段階に前倒しする(フロントローディング)、とも言えるでしょう。
特に、要素技術の開発段階で「市場での機能の安定性(ロバスト性)」を確保することは、イノベーションの創出を狙う企業にとって重要な意味を持ちます。
「顧客に感動を与えるような新製品を届けたい」、多くの場合、そのためには新しい顧客価値の創出を実現できるような革新的な技術の弾込めが求められます。
他社の後追いではなく自社独自の新技術を開発して、それを新製品に実装するのであれば、新しい機能の実現だけでなく、その機能の安定性も同時に確立する必要があります。
新技術であっても機能の安定性(「ロバスト性」)が確立されていれば、市場で発生する品質リスクや、製品設計段階以降での品質問題の対応コスト・期間をミニマムに抑えることができるので、企業はそうした新技術を活用したイノベーションに対して、より積極的にかつ効率的に取り組むことが可能になります。
タグチメソッド(品質工学)の適用により、新技術の「市場での機能の安定性」を予測できることは、新しい顧客価値を生むイノベーティブな製品開発を推進することにつながるのです。
“開発プロセス全体に渡る課題解決に、
QFD-TRIZ-TM(タグチメソッド)の体系的開発手法に基づく
科学的アプローチを展開”
企業事例はこちらから
システム(製品や技術)には、必ず⽬的とする働きがあります。その働きのことを “機能”と表現します。機能は「○○を△△する」というようにシンプルに表わすことができます。
システムが機械装置である場合は分かりやすいでしょう。
例えば、馴染みのある装置ということで、⾃動⾞(乗⽤⾞)で考えてみましょう。
⾃動⾞そのものの機能は「ヒトを運ぶ(移動させる)」ですし、その構成要素として、ドアの機能は「(乗降の)空間を作る」と表現できそうです。
ハンドル(ステアリング)の場合は「(タイヤの)向きを変える」、エンジンやモータは「回転トルクを作る」、プロペラシャフトは「回転を伝える」、タイヤは「(路⾯との摩擦で)移動⼒を作る」などと表すことができます。
単純な構造の備品などではどうでしょうか?
例えば、体温計の機能はどう表せばよいでしょうか?
セロハン(粘着)テープはどうですか?
体温計の場合は「⾝体の温度を正しく表⽰する」が機能で、「正しく表⽰する」ために「体温に比例した(⽔銀の)膨張とか、電流値を得る」といったことが⼿段としての機能と⾔えます。
セロハン(粘着)テープの場合には「(テープ幅に比例した)引きはがし荷重を作る」などと表すことができます。
モノを機能で表わすことはとても⼤切なことで、タグチメソッド(品質工学)では、このようなシステムの基本的な働きのことを“基本機能”と呼んでいます。
通常、装置と⾔われるものは⽬的の機能を作り出すために、多くの部品がそれぞれの基本機能を持ち、それらが組み合わされてシステム全体としての目的機能を実現しています。⼀⽅、備品のようなシンプルな構造のものでは、それ⾃体が基本機能を持っているといえます。
現実世界では、システムの機能に影響を与える様々なノイズが存在します。
製造時の原材料のばらつきや工程条件の変動、市場に出てからの製品の経年変化、ユーザの使用条件や保存条件の違いなど、システム(製品・技術)の機能に影響を与えるノイズ(内乱・外乱・ばらつき)は様々です(下図)。
タグチメソッド(品質工学)では、こうしたノイズを「外乱、内乱、品物のばらつき」の3種類に分類して考えます。
外乱: 自然環境や使用方法の違いなどシステムの外部から伝わるノイズ。雪道や砂利道など路面の状態の違いによって、自動車のブレーキ性能は大きく変わってしまいますが、この場合の路面の状態は外乱です。
内乱: 使用部品の劣化や摩耗などシステムの内部で発生するノイズ。自動車のワイパーのゴムが摩耗すると、拭きムラが生じたり異音が発生したりしますが、このゴムの摩耗は内乱です。
品物のばらつき: 購入部品や材料について、購入先企業やロットによるばらつきがあるもの。
こうしたノイズは必ず存在します。外乱(自然環境やユーザの使用条件)は開発設計者にはコントロールできません。内乱や品物のばらつきについては、それらのノイズを厳密に取り除こうとすればするほど時間がかかりコストもアップしてしまいます。
そこで、タグチメソッド(品質工学)では、ノイズの存在には手を着けずに、ノイズの影響を減少させる、というアプローチをとります。
様々なノイズが存在する下でも、システム(製品、技術)の基本機能が損なわれずに安定して発揮されるような、耐ノイズ性を高めたロバストな設計をするアプローチで「パラメータ設計(ロバスト設計)」と呼ばれる手法です。
タグチメソッド(品質工学)のパラメータ設計手法には、次の大きな特徴があります。
「タグチメソッドとは何か? どのような効果が期待できるのか︖」
※パラメータ設計の手順を含む
タグチメソッド(品質工学)の解説資料は
下記リンク先よりダウンロードできます
精密鍛造金型のトップクラスメーカによる、
自社技術を起点とする新商品開発の取り組み
~シーズドリブンQD~TRIZ~タグチメソッドの連携活用~
企業事例はこちらから
改めて、タグチメソッドを適⽤することによって得られる効果を整理します。
先⾏性:
製品企画に先⾏して要素技術の安定性を確保できるので、開発期間の⼤幅な短縮につながります。
汎⽤性:
開発された技術が、類似製品の開発にも広く応⽤できるので、開発全体の⼯数の⼤幅な削減につながります。
再現性:
開発段階での品質の確認結果と、市場での実使⽤の結果が⼀致するので、市場品質問題の⼤幅な改善につながります。
単独で適用してもこれらの大きな効果が期待できるタグチメソッド(品質工学)ですが、私たちIDEA では、魅力的で差別化された製品や技術を生み出すために、TRIZ で創出した⾰新的な課題解決策(技術コンセプト)を、信頼性を確保して具現化する手段として、タグチメソッドのパラメータ設計を活⽤することを推奨しています。
パラメータ設計により、ノウハウの蓄積のない⾰新的な技術コンセプトであっても、ノイズに対してロバストな技術として品質を作りこむことができます。(もちろんTRIZ を使わずに考えた技術コンセプトの具現化にも有効です)。タグチメソッド(品質工学)は、私たちIDEAの体系的開発手法ソリューションにおいて、
IDEA-QFD(ヒット商品を生むためには何をつくるか?、魅力的で差別化につながる開発企画)→
IDEA-TRIZ(その商品企画を実現するための技術課題はどう解決するか?、技術コンセプトの創出)→
IDEA-タグチメソッド(新しい解決策の信頼性をどう確保するか?)
というコンセプトを具現化し最適化する段階のプロセスです(下図)。
QFD、TRIZ、そしてQFD-TRIZ-タグチメソッド(品質工学)の連携適用など、各手法とその適用効果について紹介する無料のWebセミナーを開催中です。詳細・申し込みは、下記のボタンをクリックしてください。
QFDによる商品開発のプロセスを身近な事例で紹介し、
従来の商品企画との違いと有効性を知る
無料セミナーはこちらから