背景 |
市場をリードする力を維持するには、イノベーションは最優先に考えなければならない |
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課題 |
研究者・技術者が、先入観や狭い知識に囚われず常に新しいアイデアを出して、顧客企業に価値を提供し続ける必要があった |
効果 |
多様性のある、思ってもいなかったアイデアも出て、課題をブレークスルーできた。 研究開発者の課題解決力をさらに上げて、イノベーションに繋げていきたい |
Everest Textile(本社:台湾台南市、http://www.everest.com.tw)は、ナイキやノースフェイスなど多くのグローバルブランドを顧客とする、高機能ファブリック分野のリーディング企業です。
同社のEverest Technology Research Centerでは、2016年よりIDEAのTRIZ課題解決コンサルティングサービスとイノベーション支援ソフトウェアGoldfireを導入し、革新的な課題解決に取り組んでいます。
今回は、Everest Textileの取り組みについて、IDEAの台湾における販売代理店Hinton Information ServicesのPaul Hsuが、Everest Technology Research Centerの許 筌壹(Chuan-I Hsu)氏(写真左端)にお話を伺いました。
Paul@Hinton: Dr. Hsu, 最初にEverest Textileの会社と事業について教えてください。
Dr. Hsu@Everest Textile: Everest Textileは、台湾の台南市に本社を置いています。当社は1988に創業し、今は3100名の従業員がEverest Textileで働いています。
当社は、スポーツ・アウトドアブランド、ファッション・シティブランドメーカ向けに機能性ファブリックなどの素材を開発・提供しています。お蔭様で、スポーツ・アウトドア分野では、ナイキ、ノースフェイス、コロンビア、パタゴニアなどグローバルブランド企業の主要プロバイダになることができました。
Paul@Hinton: Hsuさんは、Everest Technology Research Centerに所属されていますね。センターの概要についてお話いただけますか?
Dr. Hsu@Everest Textile: 当社の研究開発組織は、台南市の本社にあり、約150人の研究者がいます。研究開発部門は、私が所属している素材開発や生産技術の先行開発を担うEverest Technology Research Center(ETRC)と、ETRCの研究開発成果を活かして顧客企業のニーズに応えながら製品開発を進めるConnecting & Development Dept. (C&D)で構成されています。
「イノベーション」を最優先に考えるETRCにとって、TRIZはまさに今必要としているものと直感した
Paul@Hinton: 2016年からTRIZを導入して課題解決の革新を図られていますが、そこにはどのような背景があったのでしょうか?
Dr. Hsu@Everest Textile: 2016年の夏にPaulさんが当社の葉(Yeh)董事長(注:董事長は、日本でいう社長・CEO)を初めて訪問して、IDEAさんのTRIZ課題解決コンサルティングサービスを紹介されたとき、葉(Yeh)はその場で導入を決断したそうです。
将来に渡り市場をリードする力を維持するために、当社では「イノベーション」を最優先に考えています。そのためには、私たちETRCの研究者・技術者が、先入観や狭い知識に囚われずに常に新しいアイデアを出して、当社のパートナー企業に高い価値を提供し続ける必要があります。TRIZは、Everest Textileがまさに今必要としているものだと直感したそうです。
Paul@Hinton: 2016年秋に最初のプロジェクトがスタートしました。どのような問題の解決に取り組んだのですか?
Dr. Hsu@Everest Textile: 私自身も参加したこのプロジェクトでは、「ファブリック表面に残留する樹脂の問題解決」に取り組みました。
防水性などの機能を付与するために、水溶性樹脂にファブリックを浸けた後、いくつかの工程を経て、オーブンで加熱して水分を乾燥させます。そのときファブリックの表面に樹脂が不均一に残留することがあり、それが色むらなどのファブリック外観や歩留まりに影響を与えます。最初のプロジェクトでは、当時私たちを悩ませていたこの問題の解決に取り組みました。
Paul@Hinton: 製造プロセスの問題解決ですね。具体的にどのようにプロジェクトを進めていきましたか?どこから着手したのでしょうか?
Dr. Hsu@Everest Textile: IDEAのコンサルタントの桑原さんに指導してもらいながら、IDEA-TRIZの課題解決プロセスに沿って、まずは問題の本質的な原因が何かを検討しました。
最初に、対象の製造プロセスを時系列で整理しました。
それぞれの工程の目的とそこで何が行われているか、それによる影響や問題を時系列で書き出しました。
次に、問題の原因になっていると想定されるプロセス(工程)について、工程の構成要素を書き出してTRIZの機能-属性分析モデルを作成しました。
その上で原因-結果分析を行い、問題発生のメカニズムを、製造装置の設計のどこに起因するのか、問題の根本原因を抽出しました。
Paul@Hinton: TRIZでアイデアを出す前に、まずは課題の根本的な原因を明確にする必要があったのですね?
Dr. Hsu@Everest Textile: はい、そうです。それから各根本原因について、TRIZでアイデアを出すための問題定義を行い、発明原理や技術進化パターンといったアイデア創出ツールを使って、課題解決のアイデアを広げていきました。
今回は製造に関する問題なので、「作り方」と「製造装置」の両方の視点を意識してアイデアを出しました...短期から中長期まで複数の課題解決コンセプトをまとめ上げました
Paul@Hinton: TRIZでアイデアを出すときに、何か指針にされた点はありますか?
Dr. Hsu@Everest Textile: IDEAの桑原さんからは、「今回の問題は製造に関する問題なので、「作り方」と「製造装置」の両方の視点を意識しながらアイデアを出すように助言されました。
例えば「作り方」であれば、プロセスの順番や位置関係、材料の流し方や加熱方法など。「製造装置」で言えば、布を送る機構の大きさや長さ、染色槽の深さや位置などです。
アイデア出しの結果、発明原理を使って163個、進化パターンを使って87個、全部で250個のアイデアを出すことができました。
それらを分類整理・評価して、相互に組み合わせながらより有効なアイデアにブラッシュアップしていきました。
最終的には、短期から中長期まで数種類の課題解決コンセプトにまとめ上げることができました。
実際に短期的コンセプトを製造プロセスに適用し大きな成果を確認...多様性のある、思ってもいなかったようなアイデアも出て、課題をブレークスルーできました
Paul@Hinton: 最初のセミナーも入れて僅か10日間のコンサルティングで、そこまでやり遂げたわけですね。実際に取り組んでみて、成果をどう評価されましたか?
Dr. Hsu@Everest Textile: 予想以上にアイデアを出すことができて驚きました。そして実際に短期的コンセプトを製造プロセスに適用し、具体的な数字はお話できませんが、大きな成果を確認することができました。
従来の私たちのやり方と比べると、TRIZを使えば、アイデアの数はもちろん、アイデアの多様性や、今まで思ってもみなかったアイデアを出して、課題をブレークスルーすることができました。
Paul@Hinton: その後、TRIZを他の課題にも適用されていますね。
Dr. Hsu@Everest Textile: はい。この最初のプロジェクトの後、もう1回、IDEAの桑原さんの指導を受けてTRIZ課題解決プロセスの適用の仕方を学びました。その後は、習得した方法を社内のメンバーだけで活用して課題解決に取り組んでいます。
TRIZを活用できるようになり、アイデアが出なくて困るということから解放されました。これからもTRIZを活用して、当社の研究開発者の課題解決力をさらに上げて、イノベーションに繋げていきたいと思っています。
Paul@Hinton: Hsuさん、今日は貴社におけるTRIZ活用について、貴重な体験を共有頂き有難うございました。
今回は、日本を飛び出して、台湾のクライアント企業のTRIZ活用事例についてご紹介しました。
インタビューの中に出てくるEverest Textileの葉董事長は、台湾産業界のニュー・リーダーのひとりと認められている経営者で、台湾の蔡 英文総統の最初の外遊にも産業界の代表メンバーとして同行されています。
そんな経営者の方に、イノベーション創出の推進力として期待して頂き、実際にIDEA-TRIZのプロセスを社内展開して頂いていることを光栄に思います。
今回の取材の実現に協力頂いたEverest TextileのHsu様、そして弊社のパートナーのHinton Information ServicesのもうひとりのHsuさんのお二人に感謝します。
(本内容は、2020年4月時点のものです)
IDEAは、体系的な製品開発手法の連携と支援ソフトウェアを活用して、製造業が抱える様々な課題に応えます。
IDEAのコンサルサービス・支援ソフトウェアとその活用に関する様々な情報を、お役立ち資料としてまとめました。
革新的な製品・技術を生み出すための製品開発手法やGoldfireソフトウェアの活用、社内に展開する仕組みづくりなどに関する、コラム記事の一覧です。