背景 |
大変革期の自動車業界において、今の製品をこのまま作り続けていて良いのだろうか? 今一度、自社の製品を根本から見直す必要を感じていた |
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課題 |
従来からの「待ち受け型の開発」を脱却し、「提案型の開発」への転換を目指す必要がある。 しかし変革は簡単なことではない |
効果 |
QFDを活用し、顧客に魅力的な提案をするためには「何を売るのか?」、「どう実現するのか」のコンセプトを明確にすることができた。 コンセプトの実現課題をTRIZで解決して、さらにブラッシュアップしていく |
水島プレス工業株式会社様(http://www.mizushima-press.co.jp/)は、ステアリングシャフトやドアヒンジなどの輸送用機器メーカです。
同社は2015年からTRIZを活用した技術課題解決力の強化、シーズドリブンQDを活用した新規事業のアイデア創出などに取り組んできました。
そして2019年からは、QFD-TRIZの連携活用により、従来からの「待ち受け型の製品開発」から脱却し「提案型の製品開発」を目指して取り組んでいます。
今回は水島プレス工業の取り組みについて、同社技術部 第1技術グループ 先行開発係の守屋宗真様(写真右)に、弊社前古(写真左)がお話を伺いしました。
前古: 守屋さん、本日はお忙しい中有難うございます。
まずは水島プレス工業さんの会社、製品についてご紹介頂けますか?
守屋様: 当社は1953年に創業し、輸送用機器の製造を行っています。
2018年度の売上高は55億円、社員数は242名です。本社は岡山県倉敷、国内の製造拠点は岡山と徳島にあります。海外では2011年より中国、2012年よりインドネシアの合弁会社で製造、事業展開しています。
当社の主力商品はステアリングコラムアセンブリです。
ステアリングコラムアセンブリとは、皆さんが普段握っている自動車のハンドルを保持する非常に重要な保安部品です。車の基本性能の走る・止まる・曲がるの内、曲がるを担う大切なものになります。またお客様によっては、ステアリングシャフトのみの供給もしています。
乗用車だけでなく、国内全ての大手トラックメーカーへの納入実績があります。同じようにハンドルが付く、産業機械・農業用機械への納入も行っています。また一部ではありますが、自動車用及びトラック用のドアヒンジも生産しています。
前古: そうした製品を支えるものづくりの技術についても、少しお話頂けますか?
守屋様: 当社では、塑性加工を中心とした、特に板金プレス加工・スウェージ加工を駆使したものづくりを行っています。
このスウェージ加工は日本国内では少し珍しい加工です。通常の絞り加工でできないようなアンダーカット形状が可能で様々な付加価値をつけることができます。パイプの内側に高精度なスプライン形状等を付与できる特徴もあります。材料も絞り加工に比べると安価材で加工できます。
当然、絞り加工も得意としていますので、製品形状によりどちらがお客様・当社双方にとってメリットがあるのかを考え、工程設計を行っています。
塑性加工を中心としたコア技術を生かし、部品加工そして表面処理等を経て、組立に至るまで社内一貫で行うことにより、高品質・低コストな商品をお客様へ提供しています。この一貫生産が当社の強みです。
「従来の作り方で何とかなる」⇒「製品に対する意識が変わらない。先入観に埋もれている」⇒ 「新しい発想が生まれない」という悪循環に苦しんでいた
前古: 水島プレス工業さんとIDEAは2015年からのお付き合いになりますね。
守屋様: そうですね。
2015年にステップ1としてステアリングシャフトの重要部品であるユニーバーサルジョイントの性能向上に挑戦しました。
当時当社は、「従来の作り方で何とかなる」⇒「製品に対する意識が変わらない。すなわち先入観に埋もれている」⇒ そして「新しい発想が生まれない」という悪循環のプロセスの中で苦しんでいました。
そんな時にIDEAさんと出会い、TRIZを活用することで問題解決方法や開発に対する意識を改革し、今までにない性能のユニバーサルジョイントの開発に成功しました。
次にステップ2として2018年にシーズドリブンQDによる自社技術を活かした新規事業アイデアの創出に取り組みました。
当社の製品技術や生産技術を棚卸しして、従来からの自動車部品にとらわれず、当社技術の活きる用途を検索・調査してターゲットを見つけ出しました。
そのターゲット用途について要求品質展開表を用いて顧客ニーズ(品質特性)から技術課題に落とし込み、今まで当社でつくれるとは思っていなかった、新しい二つの製品のカタログ制作までこぎつけました。
そして現在、ステップ3として、変革期の自動車業界における新たな顧客要求に向けて、提案型の開発にQFDとTRIZを連携活用して取り組んでいます。
市場の変化に対応し将来への不安を払拭するために、従来の「待ち受け型」を脱却して「提案型製品開発」へ変革しよう
前古: ステップ1で技術課題の解決力の向上、ステップ2で新規事業構想力の向上、今はステップ3として市場の変化に対応した「新しい開発の在り方」に取り組まれているのですね。
ステップ3の取り組みには、どんな背景や目的があったのでしょう?
守屋様: 自動車産業は今目覚ましいスピードで変化し続けています。
各社とも自動運転技術に力を入れ、当社が生産している部品形状も、ニーズに合わせて変化しています。
そんな中で今の製品をこのまま作り続けていいのだろうか?
本当はもっと画期的な部品にしたいのに妥協していないか?大手企業との競合も厳しくなっている...将来を考えたときのこうした不安を払拭するためには、今一度自分達の作っている製品を見直す必要があると考えるようになりました。
今までの当社は、お客様からの要求形状・要求品質に基づき、高品質と低価格を実現するように部品製作を行ってきました。いわゆる「待ち受け型の製品開発」を行ってきたのです。
しかし、市場の変化に対応し、将来への不安を払拭するためには、お客様の期待を大きく超え、競合企業を席巻するべく、あっと驚く魅力的な製品が必要だと考えるようになりました。そんな製品開発は「待ち受け型」からは生まれません。
そこで、従来の「待ち受け型」を脱却して「提案型製品開発」へ変革しようと思いました。ですが、こうした変革は簡単なことではありません。
そこでIDEAさんの力を借りて提案型製品開発企業への変革を目指すことにしたのです。
トラック業界は運転手不足の解消のために自動運転化が急ピッチで進む。そんな背景もありトラック用ステアリングシャフトでQFDに取り組みました
前古: 顧客の要求事項を粛々とこなしていくだけでは、大変革期にある自動車業界では生き残っていけない、「提案型への転換」を目指した取り組みをスタートされたのですね。
守屋様: 今回私たちはトラック用ステリングシャフトを対象に取り組みました。まずはその対象製品について簡単に紹介しましょう。
ステアリングシャフトの基本機能はハンドルからタイヤにトルクを伝える事。折れたり、壊れない事です。
また、ハンドルの位置を前後に調整できる、すなわちスライドする事が求められます。シャフトとチューブが嵌合している事で、スライドする機能を果たします。
さらにトラックは整備する時にキャビンが大きく開くので、スライド範囲も乗用車に比べ、はるかに大きくなっています。
当社はトラックメーカー4社の大中小型向けに、客先仕様別で約100種類のシャフトを生産していますが、それらをモジュール化することで10種類に類別し生産を行っています。
当社の中で20年近く形状が変わらず、機能面も大きく変わらない部品でした。しかし時代の流れで、トラックシャフトにも変革の大波が迫ってきています。
特にトラック業界は運転手不足の解消のために自動運転化が急ピッチで進んでいます。そういった時代背景も含め、今回トラック用ステアリングシャフトでQFDに取り組みました。
「何を売るのか」、「そのためには開発として何の実現が必要か」を明確にする
前古: QFDのプロセスは具体的にどのように進めて行かれたのでしょう?
守屋様: 私たちがIDEAさんのコンサルを受けながら進めたQFDは、簡単に言えば、「何を売るのか」と「どうやって作るのか」を考え、明確にしていくプロセスです。
まず原始情報の収集は、客先のトラックメーカだけでなく、エンドユーザの運送会社のトラックドライバへのヒアリングも実施。また各メーカのスペックブックやカタログ情報を精査し各社が力を入れているポイントを抽出しました。
その後、100項目以上の原始情報の要求品質への変換、品質企画(評価と優先順位付)、技術特性を抽出と進めていきました。
QFDのプロセスを実施した結果、①現状製品の問題・ブラッシュアップ項目、②魅力的品質を実現するための技術課題、の二つが明確に見えてくると同時に、それを社内で共有することができました。
TRIZを使うことで、従来の発想からは生まれなかった、顧客の要望を満たす新構造部品のコンセプトを創出できた。さらにTRIZを使って製品化に向けてブラッシュアップしていく
前古: 顧客に魅力ある提案をするためには、「何を売るのか」、「そのためには開発として何の実現が必要か」が明確になったわけですね。
守屋様: はい、そうです。しかし当社の今までの悪循環スタイルでは、「問題解決まで本当にたどり着くのか」という懸念がありました。そこでTRIZを使って、妥協なく、確実に問題解決していくことになりました。
まずTRIZの機能属性分析(デバイス分析)により、トラック用ステアリングシャフトを構成する各部品間の繋がりや機能の相互関係を図示して理解しました。
次に根本原因分析にょり、目標の達成を阻んでいる本質的原因が何か、本当に解決すべき問題は何かを分析しました。
ここからは問題の矛盾定義を行いTRIZの発明原理で大量のアイデアを創出し、それらのアイデアを評価、組み合わせて今回の問題に最適な解決策にまとめ上げていきました。
その結果、従来の発想からは生まれなかった、顧客の要望を満足する、新構造部品のコンセプトを創出できました。
コンセプトは現在試作評価中です。
まだまだ荒削りなので問題は出てくると思いますが、そうした問題はTRIZで解決して、当社の新製品としてアピールできるようにブラッシュアップしてきたいと思っています。
前古: 今の取り組みを、今後はどのように社内で展開していかれるのですか?
守屋様: 今回コンサルを受けて取り組んだQFD-TRIZプロセスは、いくつかの方向で活用を進めていきます。
まずは、トラック用ステアリングシャフトについては、QFDで明らかになった現状製品の問題の潰し込み。これはTRIZで取り組み中です。
そして今ご紹介した魅力的新製品の開発・提案を進めていくこと。これもそのためのブラッシュアップをTRIZで取り組み中です。
そしてこのアプローチを他の部品へも展開し顧客満足度の向上を目指します。
こうした取り組みを通して、このアプローチを社内に展開・定着させていきたいと思っています。
前古: 守屋さん、今日は貴社における、TRIZを核とする体系的開発手法活用の取り組みについて、貴重なお話を聴かせて頂き有難うございました。
自動車産業はもちろん、多くの業界や技術分野に大きな変革の波が押し寄せています。企業の開発部門や技術部門では、「変化に対応して、何をつくるか・どうつくるか」を発想するための企画構想力や課題解決力の強化が求められています。
水島プレス工業様のこの数年の継続的な取り組みは、同じ課題感を持たれている多くの企業にとって、参考になり、何よりも勇気づけられる事例ではないでしょうか?
今回の取材にご協力頂いた同社の守屋様に感謝します。
(本内容は、2019年11月時点のものです)
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