TRIZ創始者のおしえ(第5回) 技術的矛盾と発明原理 その1
こんにちは、株式会社アイデアで講師を担当している笠井です。
今回は、TRIZの発想ツールとしてよく知られている「発明原理」について、アルトシュラーがどのように説明していたかをご紹介します。
「発明原理」と、それを導き出す「特性パラメータ」「技術的矛盾解決マトリックス」については、TRIZ関連の書籍やWebサイトでも多く紹介されていますからご存じの方は多いと思います。
今回、アルトシュラーが学生たちにどう伝えていたかを知っていただけると、皆さまが実務問題でTRIZを実施する際、「発明原理」の適用がよりスムーズに運ぶと思います。
技術的矛盾とは
場面は、アルトシュラーが街角でマイクロフォンを持って立っているシーンから始まります。
アルトシュラー(以下、Aとする) 「我々が直面する“難しい”問題(発明的問題)は、その問題が矛盾を含んでいるために解決を難しくしていると言ってもよいだろう。
君たちが技術システムのある特性を改善しようとする時、別の特性が悪化してしまうことがよくあるのではないだろうか? そこで君たちは、その矛盾問題に必死になって取り組むことになる。
さて、この映像の制作者は、私に街に出て視覚的な事例を使いながら矛盾を説明するように頼んできた。しかし、わざわざそんなことをする必要はないと思っている。
例えば私は今、マイクロフォンを持って話しているが、このマイクロフォンの感度を良くすることは可能だ。そうすれば、私の不快な声(♪)を正確に捉えることができるだろう。しかし感度を良くすれば、同時に他の多くの不要な音をも拾ってしまうことになる。
私たちはひとつのことを獲得するとき、往々にして別のことを失ってしまう。それは、どんな技術的な問題についてもあてはまると言ってよい。私たちがある部分や特性を改善しようとすると、意図せずに別の部分や特性を悪化させることが多い。その矛盾のことを「技術的矛盾」と呼んでいる。
私たちがある部分や特性を改善しようとすると、意図せずに別の部分や特性を悪化させることが多い。その矛盾のことを「技術的矛盾」と呼んでいる。
例えば、この街を走っているバスで考えてみよう。もし多くの乗客を運ぼうとするなら、バスの長さをより長くすればよいだろう。しかし、バスを長くすると交差点でのハンドル操作が難しくなってしまう。私たちは、その「技術的矛盾」を解決しなければならない。多くの乗客を運べるようにバスを長くしても曲がりにくくならないためには、創造的な解決策が必要だ。
ちょうど今、ここを通りかかっているバスを見てみよう。このバスは通常の約2倍の長さがあるが、前後の中央の部分で分かれていて、そして結合されている。このような方法は「分割原理」と呼ばれている。「分割原理」というのは、問題を解決する方法として、物体を個々の部分に分けたり、容易に分解できるようにしたり、あるいは分割の度合いを強めたりすることを促すものだ」
発明原理と(技術的矛盾解決)マトリックス
場面は、アルトシュラーが教室で学生たちに講義しているところに移ります。
A 「さて、私たちの前に立ちはだかる問題は無数にある。しかし膨大な数の特許を調べた結果、それらの問題を生み出している「技術的矛盾」の数は限られていることが分かった。そして「技術的矛盾」は、「分割原理」に代表されるような一般的な「発明原理」を使って解決することができるのだ。
膨大な数の特許を分析した結果、それぞれの問題が解決された方法を約50の普遍的な「発明原理」に集約できた。
世界中のすべてのものの差異は、約100種類の化学元素から生み出されているということはよく知られているが、発明の世界でもそれと同じことが言えるのだ。
我々が膨大な数の特許を分析した結果、それぞれの問題が解決された方法を約50の普遍的な「発明原理」に集約できた。そして、それらの「発明原理」が非常に多くの問題の解決を可能にした。「技術的矛盾」を有する問題のほとんどは、「マトリックス」(※注)から導かれる「発明原理」を使うことによって、確実に解決できるということだ」
- ※注 :40万件(最終的に250万件)ともいわれる膨大な数の特許を分析して構築された表。改善したい特性とそれに伴って悪化する特性をマトリックスの形で配置し、交差するセルには問題の解決につながる普遍的な「発明原理」(最大で4種類)を記載している。現在では「技術的矛盾解決マトリックス」と呼ばれている。
いかがでしたか?
ここまでは、アルトシュラーが世界中の特許を分析して、普遍的な「発明原理」に集約したという概要の説明でした。一般化できると考えたきっかけは、さまざまな分野の特許には同じような矛盾問題があり、その問題を解決した方法も同じようなものであると気づいたことにあります。この講義の中では、約50の「発明原理」と述べていますが、最終的には「40の発明原理」となり現在に至っています。
さて、ここからアルトシュラーの講義は「発明原理」と「マトリックス」の具体的な使い方へと続いていきますが、それは次回のコラムでご紹介しますのでお楽しみに。
笠井@IDEA