連載コラム
「TRIZ創始者のおしえ」

TRIZ創始者のG.アルトシュラーの講義映像と著作を紐解き、
彼がどのような思想や考えをもってTRIZの理論や体系を生み出したか、
それをどう語り伝えていたかを紹介します

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TRIZ創始者のおしえ(第4回) ARIZ(アリーズ)の生い立ちと理想解

笠井肇


こんにちは、株式会社アイデアで講師を担当している笠井です。


今回は、効率よく問題解決を進めるためのプログラムとして開発された、ARIZ(アリーズ)についてご紹介します。
ARIZは、TRIZ(発明的問題解決理論)の“理論”を表す“T”を、アルゴリズムを意味するロシア語を英語表記した頭文字“A”に置き換えたもので、日本では“発明的問題解決のアルゴリズム”と訳しています。


TRIZは日本に伝えられて以来、“矛盾”という概念とそれを解決する手段としての“発明原理”ばかりがもてはやされてきました。しかし、アルトシュラーはそのほかの様々な発想ツールも織り込んで、難しい問題を効率よく解決するプログラムとしてARIZを構築していました。


ARIZは、問題解決に至るまでのプロセスを多くの順序だったステップに分けて構成されています(※映像の時点では50ステップ)。そのために、複雑で手間がかかるものという印象を持たれてしまい、喫緊の課題を解決したい日本の技術者からは敬遠されてきたように思います。


アルトシュラーは今回の映像の中で、ARIZの生い立ちと、難しい問題に直面した時には“理想解”をイメージすることからスタートすべきであるということを、ユニークな事例を交えながら講義しています。それでは、学生たちに講義している場面に移りましょう。


ARIZの生い立ち:難しい問題を効率よく解決するプログラム


アルトシュラー(以下、Aとする) 「さて、ここからは発明を効率よく行うためのプログラムについて話を進めていくことにする。先ずはなぜこのプログラムが必要か、ということを分かりやすい事例で説明しよう。


ある人が5mの高さを跳ぼうとしている状況を想像してみてほしい。言うまでもなく、5mの高さを跳ぶのは人間の能力を超えているから、『それは不可能だ!』と考えるのが普通だね? 5mの高さまで一気に跳び上がろうとするのは、直面する問題からその解決に向けて、直接的に解を得ようと試みることに似ている。


発明かは試行錯誤法により問題を解決しようとしがちだ


人間は誰しも5mの高さを跳ぶことはできないが、私たちは梯子を使うことができる。
もし1段が50cmの梯子を使えば、誰でも簡単に5mの高さを登ることができるね? 発明家たちも複雑な問題を取り上げる時には、この梯子に相当するようなプログラムを必要としているはずだ。しかしそれは容易に手に入らないので、先に話したように試行錯誤(第二回、第三回コラム参照)を繰り返して、解決までに長い時間がかかっているのが現実だ」



  TRIZ創始者のおしえ(第2回) 試行錯誤からの脱却 その1 | 株式会社アイデア TRIZの創始者のアルトシュラーは、発明家は「試行錯誤法」からの脱却が必要だと説きます。では試行錯誤法とは、具体的にどのような思考法なのでしょうか? 株式会社アイデア


  TRIZ創始者のおしえ(第3回) 試行錯誤からの脱却 その2 | 株式会社アイデア TRIZの創始者のアルトシュラーは、問題解決を遅らせる「思い込み(心理的惰性)」を払拭し、「試行錯誤法」からの脱却が大切だと説きます。 株式会社アイデア



複雑で難しい問題を解決するためには、体系的な創造のプロセスが必要になる


A 「複雑で難しい問題を解決するためには、体系的な創造のプロセスが必要になる。それを提供するプログラムは1946年に我が国で創案されたのだが、このプログラムの正当性については近年まで審議されていた(※)。


それは二つの科学学校が同意しなかったことによる。一方は、発明というものは血筋が支配するという考えに固執しており、もう一方は、発明家は異常だなどと批判していた。そして、その二つともが科学的であるという証言によって支持されていた。我々は、効率よく発明に至るプロセスを踏むためにこのプログラムを創ったのだが、それが当時はとても奇異的なこととして認識されてしまったようだ。


しかし今では、複雑で難しい問題を解くためにはこのプログラムが必要であることが理解されている。当初、そのプログラムは完全ではなかったが、我々はそれを実問題に適用してどんどん検証していったのだ。これが現在の問題解決のアルゴリズム(以降“ARIZ”と表記)が開発された背景だ」


  • ※笠井の解釈: 1946年というのは、弱冠20歳のアルトシュラーがTRIZの研究に着手した年で、彼が当初から発明のためのプログラムを構築することを目指していたのが推測できます。また“近年まで審議されていた”とありますが、この映像が製作されたのが1972年なので、20年以上もこのプログラム(ARIZ)に異論を唱えていたグループ・組織があったということになるのでしょうか。


終わり(理想解)からの発想


A 「ARIZは、問題解決に至るまでのプロセスを50の順序だったステップに分けている。
その初めの段階で行う重要なステップを取り上げてみよう。それは、問題を解くのを『終わりから始める』ということだ。

だが、我々は解決策を知ることもなく、どうやって問題を終わりから解くことができるのだろうか?」


ARIZについて解説するアルトシューラー


A 「我々は本当の解は分からないとしても、理想的な解がどうあるべきかをイメージすることはできるはずだね? それは到達できない“夢”かもしれないし、“空想”かも、そして“思いつき”かもしれない。だがそれは理想的な解についてのひとつの光景であることは確かだし、それがなければ画期的な解決策に到達することは難しいだろう」


A 「それでは関連した問題を出すので、考えてみてほしい。

ここに一つの冷却装置があって、我々はその装置内の冷却液の漏れを見つけなければならない。みんなは冷却装置がどう働いているか知っているね? 冷却装置の中にはひとつのコイルがあって、冷却液を運んでいる。今、装置内で冷却液の小滴が漏れていることが分かっていて、その漏れをすばやく、正確に突き止めなければならないというのが問題だ」


学生(以下、S1、S2、・・・とする) 「冷却液はフレオン™(冷媒の商品名)ですか?」


A 「そうだとすると何が言えるかね?」


S1 「フレオンが作用して塗装の色が変わるでしょう? そうすれば漏れている場所が分かるのではないでしょうか?」


A 「うん、確かに良い考えだね! 他には?」


S 「・・・・・・」


A 「では、問題を変えてみよう! この絵に描かれているように大勢の少女がいるとする。この中から“シンデレラ”を見つけるには、どうすればいいだろうか? シンデレラはどこにいるかな?」


S2 「彼女たちに向かって声をかければ、本人が『私がシンデレラよ!』 と答えるのではないでしょうか?」


A 「そうだね! それを信用できれば、だけれどね? 理想的には、どうなったら良いだろうか?」


S2 「そこに、シンデレラ以外には誰もいなくなれば最も簡単に見つけられるのではないですか?」


A 「それはとても良いね、シンデレラだけがそこにいるという状態を作れば良いのだね?」 


群衆からシンデレラを見つけるには?


A 「ではそれと同じように考えて、冷却装置の問題に戻ってみよう。

フレオンの小滴がシンデレラだと考えてみたらどうだろうか? 漏れているフレオンの小滴以外には何も見えない、という状態を作るにはどうしたら良いかね? 我々は明かりを消すことによって、すべてのものが見えなくなるような状態を簡単に作りだすことができる。その状態でフレオンの小滴だけを可視化すれば解に到達できるね?」


S2 「フレオンの小滴を発光させることはできそうですから、暗い中で漏れている場所を特定できますね?」


A 「そうだね! 今考えてきたように、直面する問題に対して最初の段階で、ありたい姿、つまり“理想解”を想定することが必要だ。結果としてその理想解を完全に満足させる方法が得られなかったとしても、そこに近づけるためのさまざまなアイデアを創出して、解決への道筋をつけていけばよい。これがいわば『終わりからの発想』で、問題を分析する段階で先ず行ってほしいことなのだ」


直面する問題に対して最初の段階で、ありたい姿、つまり“理想解”を想定することが必要だ。


いかがでしたか? 今回は、ARIZが生まれた背景と、問題に対する理想解についてお伝えしました。


現在では理想解のことを “究極の理想解(Ideal Final Result)”と表現しています。
困難な問題の解決をARIZのステップに従って進める際は、まず問題の本質を確認して技術的矛盾を定義します。次に、“究極の理想解”を想定します。そして“X-構成要素(※注)”を導入して、システムを複雑にすることなく“究極の理想解”に近づけることを推奨しています。


  • ※注: “X-構成要素”とは、未知の何らかの物質、または作用を施すエネルギーのことで、この後に分析を進めていく中で明らかにすべきものを指します。


次回はいよいよ、ARIZを構成している問題解決のツール群のうち特にポピュラーな“矛盾”について、アルトシュラーがどのように説明していたかをご紹介します。


笠井@IDEA



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笠井 肇
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