背景 |
ユーザの声を早く的確に実現したい。そのためには、開発業務の効率化と、属人化している開発ノウハウの社内共有が必要 |
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課題 |
「御用聞き」ビジネスから脱却し、革新的な製品を市場に届けたい。 |
効果 |
「コンペで連勝」に繋がる、精密空調装置の50%小型化を実現。その後の「飛躍のきっかけ」になった |
伸和コントロールズ株式会社(本社:川崎、http://www.shinwa-cont.com/index.html)は 、先進的な流体および温度制御技術をベースに、高耐久性・信頼性を特長とした幅広い用途に対応可能な電磁弁やバルブ機器類、また半導体やFPDの製造プロセスに欠かせない精密な温度制御・湿度制御を行う精密空調・液調装置を開発する制御機器メーカーです。
同社は、2010年より、QFD-TRIZ手法、Goldfireソフトウェアを活用して、革新的な製品開発に取り組まれています。
最初に取り組んだのは、同社の主力製品のひとつである「半導体/FPD製造プロセス向けの精密空調装置のリニューアル」プロジェクトでした。
ご担当者の所属・役職を含み、本記事の内容は、2014年のインタビュー時の内容に基づきます。
またその6年後、2020年のインタビューはこちらからご覧ください。
https://www.idea-triz.com/case/shinwa2020/
半導体やFPDの製造装置開発においては、ユーザの声をどれだけ早くそして的確に実現できるかが大きな鍵となります。
ユーザの声の多くは、装置そのものの価格(もっと安く作れないか?)や制御精度の向上、あるいは機能の強化といった要望であり、営業担当によりもたらされるこれらの課題を解決することが開発担当者に求められる仕事でした。
ユーザからの要望に個別に対応する一方で、同社の開発業務責任者は、
という、2つの課題へ着手する必要性を強く感じていました。そこで社内教育担当の山本氏(管理本部副本部長)と協力し、開発手法についての社内訓練を実施することにしたのです。
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具体的な手法を検討していたところに出会ったのが、体系的開発手法を用いた製品・技術開発支援コンサルティングサービスを提供している株式会社アイデアでした。
アイデア社は問題解決手法であるTRIZの導入において、従来より主として国内の大手企業で実績を出しているコンサルティング会社でしたが、山本氏が注目したのは、同社の提案するQFD-TRIZ-タグチメソッドという3つの開発手法の連携により、革新的な電磁弁を開発した中堅企業、株式会社コガネイの開発事例でした。
コガネイにおける成功事例に確信を得た山本氏は、空調装置における課題の抽出と解決、同社の開発プロセス全体を効率化させるという2つの方針を掲げ、開発手法コンサルティングの導入とそのプロセスをサポートするIHS社のイノベーション支援ソフトウェアGoldfireの導入を決定しました。
STEP① QFD(品質機能展開)でユーザの声から開発目標を設定
プロジェクトを実行するために集められたメンバーが最初に着手しなければならなかったこと、それは魅力的な製品を開発するために最も重要な「ユーザの声(Voice of Customer)から開発目標を絞り込む」ことでした。
そこで利用されたのが、ターゲットユーザとターゲット用途における重要なニーズ(要求品質)を満たしていくためにはどの技術的特性の向上が重要かを的確に把握するための手法、「QFD(品質機能展開)」でした。
プロジェクトメンバーに営業担当も加わり議論された結果、ユーザからのニーズは非常に膨大かつ多岐に渡ることが判明します。そこでメンバーは、まずそれらの項目を5つにまで絞り込むことにしました。
そして最終的に多くのレベルアップ項目の中から、従来製品のサイズを1/2まで小型化するという高い開発(到達)目標が設定されたのです。
実はこの小型化という開発目標は、5つの項目への絞り込みが行われた時点ではそれほど目立った項目ではありませんでした。しかしプロジェクトメンバーは、最終的にこの小型化という課題への着手を決定します。
その理由は2つ。
1つは小型化という考え方そのものが環境を重視する現代の趨勢にマッチしていたこと、そしてもう1つは小型化の実現というコンセプトが、ユーザ視点に立つと非常に魅力的なものであることが分かったからです。
製品開発ではとかくその機能に目を奪われがちですが、小型化というコンセプトが持つ「製造ラインへの組み込みやすさ」というメリットは、ユーザが本質的に欲している要求を驚きとともに満たすことができる「魅力的品質」であると判断したのです。
STEP② 「機能-属性分析」と「原因-結果分析」で根本原因を掴む
現行から1/2サイズへの小型化というのは非常に高い目標です。
開発陣には「そんなことは絶対無理」という空気が漂っていました。
しかしTRIZそしてTRIZの実践をサポートするイノベーション支援ソフトウェアGoldfireにより、開発現場の空気は徐々に変わっていきます。
大幅なサイズダウンという課題を実現させる第一歩は、装置を大きなものにしてしまっている原因を見つけ出すことでした。そこで最初のステップでは、現在の空調装置を構成している様々な要素について、それらの作用を分析する「機能-属性分析」と「原因-結果分析」を、支援ソフトGoldfireを使いながら行いました。
「機能-属性分析」はシステム内の構成要素と要素間の相互作用を明確にすることでシステムの状態と振る舞いを正確に把握するアプローチで、問題の所在を解明しようと試みたのです。
そして所在を突き止めた問題がどのようなメカニズムに起因しているかの要因分析を、「原因-結果分析」により行いました。
2つのアプローチによる問題分析の結果、装置が大型化してしまっている原因の一つが配管の構造にあることが判明しました。高圧で流れる冷媒に対する耐久性を維持するため、配管には高い強度が求められます。そのため配管を曲げる際に一定のスペースが必要となることが大きな要因のひとつだったのです。
STEP③ TRIZで300件以上のアイデアを生み出す
プロジェクトチームは根本原因の一つである配管の問題について改善アイデアを考えました。たとえば配管の強度を維持したまま、曲げ角度は小さくすることが求められたのです。
この技術的に矛盾(背反)する問題に対して適用されたのが、TRIZの「発明原理」によるアイデア発想のためのアプローチでした。
発明原理では、背反する二つのパラメータ(ある特性を向上させると、別のある特性が悪くなってしまう)を選択することにより、矛盾を抜本的に取り除き解決するための有効な「発想の方向性」を示してくれます。
プロジェクトメンバーは、ここからシンプルながらも従来の発想の枠に捉われない様々なアイデアを次々と創出していったのです。
丁度その頃のことでした。2社のユーザから「装置の設置面積をもっと小さくできないか?」という要望が同社に寄せられたのです。
小型化というテーマはQFDによりプロジェクトメンバーが設定したものでしたが、このテーマがユーザの要求に合致するものであり、ニーズを先取りするものであることが証明されたのです。
これによりプロジェクトは小型化というゴールに向けて加速します。いくつかの根本原因が抱える矛盾を解決するアイデアはこの時までに300件に達していました。
TRIZにより導き出された解決策は、最終的に装置の設置面積を従来比1/2サイズに削減するというものでした。当初は不可能と考えられていた開発目標は開発メンバーが掴んだ自信とともに、ユーザの要望を十分に満たす製品として達成されたのです。
今回のプロジェクトにより開発された新しい空調装置は、最終的に従来比1/2サイズの小型化を実現させました。
この圧倒的な小型化は、製造ラインのレイアウトの柔軟性、クリーンルームのスペース効率向上という、伸和コントロールズの最終顧客(半導体装置のユーザ企業)にとって大きなメリットをもたらすものでした。
また、小型化による効果として消費電力も従来比2/3に削減されています。
さらに配管スペースの縮小により装置の組み立て時間の短縮という効果も報告されています。
ある開発メンバーは後にこう語っています。
「ウルトラC的なアイデアが突然閃いた訳ではなかった。部品の設置方向を変えてみたり不要と思われる機能を省いてみるなど、地道な工夫を重ねただけ」
「ただこれまでと違ったのは、技術者としての経験や常識に捉われてしまっていた空気が変わった。技術者として自分の能力がまだまだ伸ばせると感じた」
そして同社では現在、電磁弁・モーターバルブの分野において、QFD-TRIZ開発手法とGoldfireを用いた開発案件が新たに2件進行しています。
本記事で紹介しているのは、伸和コントロールズ株式会社様が、2010年から2011年にかけて実施した開発プロジェクトです。
後に同社の経営幹部は、QFD-TRIZ、Goldfireを活用したこのプロジェクトを、同社の「飛躍のきっかけ」になったと振り返っています。
その後、同社が、TRIZを核とする体系的開発手法やGoldfireを活用し、どう飛躍していったかについては、2020年のインタビュー記事をご覧ください。
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