TRIZ創始者のおしえ(第8回) まとめ
こんにちは、株式会社アイデアで講師を担当している笠井です。
これまでアルトシュラーは、TRIZの考え方がさまざまな技術的問題に対して有効であるということを学生たちに伝えてきました。そして、問題の分析から解決に至るまでのプロセスを組み立てたARIZ(第四回コラム参照)について、講義のまとめとして再度取り上げて説明しています。
あらためて、ARIZって何?
アルトシュラー 「課題から解決までの道を一跳びで超えることは、とてもできない相談だ。一歩また一歩と解決に近づくような、合理的な課題解決法が必要で、このような戦術を可能とするために、「発明課題の解決アルゴリズム(ARIZ)」があるのだ。
課題から解決まで、一歩ずつ解決に近づくような合理的な課題解決法が必要で、それを可能にするのが「発明課題の解決アルゴリズム(ARIZ)」だ
ARIZは柔軟性をもっているので、同一の課題についてさまざまな方法で解決できる。ARIZは、それを利用する人間の個性に柔軟に従う。そのため、課題から理想的な解決への道筋は種々さまざまである。
大事なことは正確にステップを踏むことではなく、最終的な成果なのだ。発明家は、自分の知識、経験に応じて、思うままに進むことができる。ただしARIZは、明らかに誤った道程を進む発明家に対しては、道を外れないように救済をしてくれる。
しかしここでひとつ言えることは、あらゆる器具と同様に、ARIZの与える成果は、それを利用する個人の能力に大きく左右されるということだ。
アルゴリズムのテキストを読めばどんな課題も一挙に解決できるというわけではない。サンボのやり方を読んで、それでたちまち競技に勝てるわけがない。つまり、事前にトレーニングする必要があることは誰にでもわかるはずだ。ARIZについていえば、課題との格闘には実際的な慣れを必要とするということだ」
「ところでこのARIZは、技術者だけではなく、科学者にもよく利用されている。科学者たちはARIZで問題を解決するとき、彼らの固有の問題を扱っているが、必ずしもARIZのすべてのプロセスを使っているわけではない。一度にいくつかのステップを飛び越える場合もあるし、進めるうちに突然すばらしいアイデアがひらめくこともある。
ARIZは、技術的な問題を解決するためのプログラムであり、創造的な技能を育成するためのプログラムでもある
あらためて、ARIZって、いったい何なのだろうか? それは、技術的な問題を解決するためのプログラムであるだけではなく、創造的なTALANT(技能 ※注)を開発するためのプログラムでもあるのだ」
- ※注 「技能」:TALANTはアルトシュラーが頻繁に使う単語である。これは、ロシア語をローマ字表記したもので、英語のTalentに相当する。しかしアルトシュラーは、英語で使われる「才能、素質」という先天的な能力を表す意味ではなく、「育成可能な技能」という意味で使っている。(以上は、Webサイト「TRIZ塾」の管理人である黒澤慎輔氏の解説)
いかがでしたか? これまで全八回の連載コラムで、アルトシュラーが学生たちに伝えたかったことを、映像資料に対してできる限り忠実に著してきました。
そのおしえは、現在の日本で認識されている、“TRIZは難しい問題を効率よく解決に導いてくれる手法である”という面ばかりではなく、柔軟な発想を妨げる「心理的惰性」や「試行錯誤」に囚われないことを重視しています。また、問題と向き合う際、始めに「究極の理想解」をイメージすることの重要性にも触れていました。
そうしたなかで、矛盾問題に対する「発明原理」や「マトリックス」の活用については、効率という概念も交えて説明していました。
そして第4回で、それらの要素を織り込んでプログラム化したARIZの概要を説明しましたが、今回のまとめで再びARIZを取り上げ、“ARIZは、技術的な問題を解決するためのプログラムであるばかりではなく、創造的なTALANT(技能)を開発するためのプログラムでもある”という言葉でしめくくっています。
私がTRIZに出会ったのは20年以上前でした。社内技術者にTRIZを普及・展開するために、先ずは活動の推進担当者として3日間のTRIZ研修を受講しました。その中で「発明原理」や「分離の原則」、「物質-場分析」、「スマートリトルピープル」、「技術システム進化の法則」などの個々のモジュールと、思考プロセスとしての「ARIZ」を学んだのですが、各モジュールが「ARIZ」に組み込まれていることの意味が、当時はよく理解できませんでした。その後セミナー講師などの仕事を通じて理解を深めていきましたが、この度の映像翻訳を機会にあらためて思いを新たにしました。
現在私は、企業の技術者の皆さんが抱えている技術的な課題に、TRIZを適用して解決するコンサルティングに従事しています。その際、「発明原理」や「進化パターン」などでアイデア創出を行いますが、そうした作業の前に先ずは、課題の本質を分析するところに充分な時間をかけています。具体的には、「心理的惰性」や「試行錯誤」に陥ることを回避するために、表面的な現象ではなくそれを引き起こしている根本原因に着目しています。そのようなアプローチはアルトシュラーの教えに適っていると再認識した次第です。
早く結果を出したい、という思いが強ければ強いほどStep by Stepで、ことに当たっていかなければならないのではないでしょうか?
以上で私の 『TRIZ創始者のおしえ』の連載は完結しました。次回から新しいテーマに取り組んでまいります。
笠井@IDEA