「TRIZとは?(第3回) 発明原理で背反問題を解決する(入れ子にしてみたら?)」
こんにちは、IDEAの鹿倉です。
「発明原理」は、背反問題の解決を支援するツールです。
TRIZ(発明的問題解決理論)の発想支援ツールの中でも、最も良く知られ、使われているツールでしょう。
背反問題とは、システムのある特性を良くしようとすると、別の特性が悪くなってしまう...つまり「こちらを立てれば、あちらが立たず」となる問題のことです。
こうした背反問題は、私たちの周りの至るところに存在します。
(前回のコラムでは、旅行鞄メーカの「軽さと強さを両立」をアピールポイントとしたスーツケースの例を紹介しました)
今回のコラムでは、このTRIZの発明原理が、どのようにエンジニアの問題解決を支援するのか、皆さんにも馴染みのある例でご紹介します。
皆さんは、指し棒(指示棒?)って覚えていますか?
そう、昔、学校の先生が黒板の文字を指すときに使っていた、あの長い木製の棒のことです。
この指し棒、短い棒では遠いところの文字を指せません。
離れた位置から黒板の文字を指そうとすれば、指し棒は長くないとダメです。
でも、長い指し棒は、かさばって持ち歩くことができません(だから、いつも黒板の脇に備え付けられていたのでしょう)。
「遠くの文字を指せるように指し棒を長くしたら(こちらを立てれば)、指し棒の体積が大きくなって収納したり持ち運びがしづらくなる(あちらが立たず)」という、長さと体積の背反問題です。
今、私たちは昭和50年くらいにタイムトラベルし、目の前には、あの懐かしい木製の指し棒があります。
タイムトラベルの旅行規定として、現在までの記憶は連れていけません。
タイムトラベルした私たちは、昭和、平成と、その後、指し棒がどのように変わって(進化して)いったか知りません。
昭和50年にタイムトラベルした私たちの目の前にある木製の指し棒は、その私たちにとっては「最新の指し棒」です。
そして、どういういきさつか、私たちは、「持ち運びのできる指し棒をつくって、世界を変えよう!」という意欲に燃えています。
では、私たちはどうやってこの指し棒に関する背反問題を解決できるでしょう?
「長さ」を良くしたら、「体積」が悪くなってしまう...そんな背反に直面する私たちに、TRIZは「発明原理」という着眼点を示してくれます
「持ち運びのできる指し棒をつくろう」と意欲に燃える私たちの前に、TRIZの「発明原理」ツールが差し出されます。
早速、TRIZに、
「長さという特性Aを良くしようとしたら、体積という特性Bが悪くなってしまうのだけど、どう考えたら良いだろうか?」
と尋ねてみましょう。
するとTRIZは、「なるほど。それだったら、こんな着眼点で解決方法のアイデアを考えてみるといいよ...。まず一つ目は、”入れ子にする”だ。指し棒を入れ子にしてみたらどうだい?」
という助言をくれます。
もちろんそれは、いい加減な当てずっぽうの助言じゃありません。
膨大な特許事例を分析した結果、「長さ」と「体積」の背反に取り組んだ多くの技術者たちは、
”入れ子にする”という着眼点から解決策を創出している...という法則をTRIZは見い出しているのです。
「入れ子にする」(「入れ子原理」と呼びます)は、
- 物体を別の物体の中に入れ、その物体をまた別の物体の中に入れる
- ある物体が別の物体の空洞中を通過するようにする
という発想の視点です。
あのマトリョーシカ人形や重箱みたいに、です。
TRIZは、私たち(昭和50年代にタイムスリップした私たちです)の肩越しに
「その指し棒を入れ子にしたらどうなるか考えてごらん?うまく行くはずだからさ。
入れ子にするというのは例えばこういうことだよ」...
そんな感じで助言をくれるのです。
そこまで言ってくれると、ほら、昔よくみたこんなアンテナ型の指し棒のアイデアだってごく自然に出てきませんか?
次に、TRIZはこんな助言をくれます。
「その木の棒は”固体”だね。その棒を固体以外のものにしてみたらどうなるか考えてごらん?」...
これは「パラメータ変更原理」という発想の着眼点です。
例えば、気体、液体、固体という物体の物理的状態を変えてみる、という考え方です。
これって言われないとなかなか考えつかないですね。
でも言われてみると、ほら、縁日で売っているピロピロ笛(「吹き戻し」と呼ぶそうです)と同じような仕掛けで、使わないときはコンパクトに持ち運べて、使うときだけ空気を入れて長くする、そんな指し棒もできそうです。
さらにもう少しアイデア出しを続けて行くと、”光で文字を指す”という今のレーザポインタに繋がるアイデアも出てくるでしょう...
最初は、きっと「懐中電灯の光で指すっていうのもアリだね」というアイデアを誰かが言い出して、それを聞いたもう少し光学に詳しい人がレーザポインタというアイデアに繋げてくれるのかもしれませんが。
TRIZは、元々アイデアを出すのが苦手な人にも、得意な人にも、どちらにもメリットがある
ここまで読むと、「いやいや、そのくらいのアイデアなら、ちょっとしたアイデアマンなら、別にTRIZを使わなくても出せるでしょう?」と思われる方もいるかもしれません...
アンテナ式の指し棒も、レーザーポインタも、馴染みがあり過ぎるものですし。こんなの思い付いて当然だ、と「今」感じるのは無理もないことです。
しかし、あの木製の指し棒は、当時の日本中のどの学校にもありました。誰もが見ていたはずです。
しかし、誰もがその指し棒に代わる新しいアイデアを思い付けたわけではありません。
後から振り返ると、「そりゃそうだよね」と思えるようなアイデアでも、
それがまだ全く存在しなかった時点では、「思いもよらなかった」アイデアだったのではないでしょうか?
それに、アイデアマンだけがアイデアを出せるというのも、アイデアマン以外の人にとっては困ったことです。
企業であれば、「そのアイデアマンがいなくなったらどうするの?」ということになります。
アイデアマンも定年退職したり転職したりするでしょうし、そうではなくても、異動や昇進でその人にはもはや頼れなくなるかもしれない。
そう考えると、特定のアイデアマン頼みではなく、みんながアイデアマンになれた方がずっといいはずです。
またアイデアマン自身にとっても、実はTRIZは大きなメリットがあります。
アイデアマンは長い時間悩み考え抜いた末に、ふとした瞬間に「ある解決案」を閃くことが多いと言われます。
「行き詰ったので、気分転換に散歩に出ました。そして通りかかった橋の上から川面を流れる木の葉を見た瞬間、そのアイデアが閃いたのです」...
そんな逸話をよく聞きます。
でももし彼が彼女がTRIZを使えたらどうでしょう?
アンテナ型の指し棒のアイデアをひとつひらめく代わりに、”入れ子にする”という方向で”アイデアを拡げる”、つまりいくつもの入れ子のアイデアを出すことができます。1つじゃなく、10のアイデア、あるいはもっと。
元々アイデアを出すのが得意なアイデアマンでも、逆に「アイデアを出すとか、そういうのは苦手で」という人のどちらにとってもTRIZは有効な発想支援ツールになるのです。
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QFDとTRIZ手法を連携して、「企画構想力(課題設定力)と課題解決力の両スキルのレベルアップ」を図る
今回は、”遠くを指せて、しかも持ち運びできる指し棒”を例として、TRIZの発明原理を紹介しました。
しかし、「木製の指し棒は日本中で誰もが見ていたはずなのに、誰もが指し棒に変わる新しいアイデアを思い付けたわけでは...」の続きには、もうひとつ大きな問題があります。
それは、あの木製の指し棒は日本中の学校の教室で誰もが見ていたはずなのに、誰もが”これを持ち運べるようになったら便利だろう”ということには気づかなかったことです。
革新的な課題解決(問題解決)ができることは大変重要なことです。
しかし、それと同じくらい(あるいはそれ以上)に重要なのが、「問題を発見する力」です。
「解決すべき課題は何か?」、「問題の在り処はどこか?」、現代は特に、そうした「課題を設定する力」が求められています。
今、IDEAのクライアント企業の多くが私たちと取り組んいるのが、QFD(品質機能展開)とTRIZを連携活用した、開発者や技術者の「企画構想力(課題設定力)と課題解決力の組織的なレベルアップ」です。
それを「”待ち受け型開発”から”提案型開発”への転換」と位置付ける企業もあります。(企業の事例はこちらから)
「企画構想力と課題解決力の組織的なレベルアップ」、「”待ち受け型開発”から”提案型開発”への転換」...そのためには、課題設定力と課題解決力の両面を高めることが必要です。このことについては、また後日書きたいと思います。
次回のコラム「TRIZとは?(第4回) システムの進化を予測してアイデアを出す」では、技術システムが進化する際の規則性(共通するパターン)に着目して、課題の解決や、技術開発の将来像についてのアイデアを発想するための「システム進化パターン」と呼ばれる発想ツールについて紹介します。
革新的な技術開発、製品開発に繋げるための”開発テーマ、商品企画”をどう考える?
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