限られた時間の中で、成果を出すためのフレームワーク:研究開発者のテーマ創出力と課題解決力を組織的に強化する(第3回)
こんにちは、IDEAの鹿倉です。
本連載コラムの第1回で、私たちIDEAのクライアント企業の中でも、R&D部門(研究開発、先行技術開発)の皆さんは、
- 「革新的なテーマを創出(課題を発見)する」、
- 「革新的なアイデアで課題を解決する」
研究開発者に求められるこの二つの力を組織的に強化するために、体系的開発手法を活用されていることをご紹介しました。
前回(第2回)は、そのテーマ創出や課題解決のための「フレームワーク(仕組み)」の必要性について、ステージゲート法などのテーマ管理手法との関係でお話ししました。
この「フレームワーク」の必要性について、今回は、テーマ管理(ステージ管理)手法と並び、クライアント企業との話の中でよく出てくる、「何%ルール」といった取り組みとの関係で見ていきたいと思います。
本連載コラムの各回のテーマ
(リンクをクリックすると各回のコラムに移動します)
第1回 「Where/What/How」に、体系的アプローチで取り組む
第2回 アイデアを出し、課題を解決するための具体的なフレームワークが必要
第3回 限られた時間の中で、成果を出すためのフレームワーク
第5回 シーズドリブンQD手法とGoldfireを活用して、新規事業機会を探索する
第6回 ターゲット用途で事業化を目指すためのニーズ分析・課題抽出
第10回 新規事業のターゲット用途の将来像(ニーズと課題)を予測する
目次[非表示]
本コラムでご紹介した内容をまとめたダウンロード資料を用意しました。是非ご覧ください。
「何%ルール」のような施策も、創造的な発想力や考える力を強化する仕掛けをしなければ、着実な成果は期待できない
今日のR&D部門には、自社の「経営・事業戦略」との一貫性を維持しながら、「市場や顧客ニーズ」、「テクノロジー」、「社会環境」、「規制」などの変化に対応すること、その中で新しい価値を提案できる製品やサービスへと繋がるような「課題」を発見し、それを解決することが求められています(下図)。
こう書くと、ごく当たり前のことを言ってるだけじゃないか、と思われるかもしれません。
確かにこれらは、ごく当たり前のこととして、どの企業でも認識されていることです。
企業の中期計画を読めば、研究開発に関する項目で、必ずと言って良いほどこれと同じようなことに触れられています。
けれども、それを具体的にどうやって実現していくか、研究開発の現場で実践する具体的な「打ち手」となると、多くの企業で、そこは現場任せ、そしてその現場では個人のスキルや経験に依存している...というのが現状ではないでしょうか?
「15%カルチャー」や「20%ルール」のように、就業時間の一定の割合を研究開発者が好きな業務に使ってよい、現在取り組んでいるテーマから離れる時間を意図的につくることで、イノベーションに繋がるような新しいテーマを創り出そう、そうした取り組みをされる企業もあります。
米グーグルや3Mといったイノベーションの代名詞と称される企業の「文化」として、日本の企業でも取り入れようとする企業は少なくありません。
しかし実際には、時間が与えられれば、良いテーマが創出できる、革新的な技術が開発される、という例は稀でしょう。「時間の有無」はひとつの要因でしかありません。
もちろん、「15%カルチャー」や「20%ルール」は、組織として「新しい課題の発見やテーマ創出に、しっかりと時間をかけること」を奨励するメッセージにはなります。
しかし、時間をつくるかどうかだけでなく、その時間をどう使えるか、が本当に成果を出せるか否かの鍵になるはずです。
研究開発者が効果的にテーマ創出・課題解決するための、組織的な「スキルアップの仕組み/仕掛け」は、やはり必要になります。
2回目のコラムで触れたステージゲート法のような管理手法や、この「15%カルチャー」、「20%ルール」といった取り組みがあっても、エンジニアの創造的な発想力や考える力そのものを育てる取り組みがなければ、持続的にイノベーションを生み出し続けることは難しいままです。
私たちの、体系的な開発手法に基づく「i-Advanced TRIZのフレームワーク」は、研究開発者のための、そんな「仕組み」、「仕掛け」として活用されています(下図)。
企業事例: タイヤ静音化の新技術「Toyo Silent Technology」はどのようにして生まれたか
今回ご紹介するクライアント企業事例は、TOYO TIRE様での開発事例です。
自動車業界は、今100年に一度と言われる大変革期の真っ只中にあります。
その変化の中で生き残るためには、常に新しい付加価値の提供が必要で、イノベーションを続けることが不可欠です。
そのために、TOYO TIRE株式会社様では、QFD-TRIZ手法とGoldfireソフトウェアを活用した「イノベーション推進活動」に取り組まれてきました。
その活動の成果として、エアレスタイヤ「noair(ノアイア)」や、タイヤ静音化技術「Toyo Silent Technology」などユニークな新技術を開発、社外発表されています。
「noair(ノアイア)」と「Toyo Silent Technology」の新テクノロジーについては、TOYO TIRE様の下記のWebサイトで詳しく公開されています。
開発の背景: クルマの電動化と自動運転化が、静かなタイヤへの要求をクローズアップする
CASE(C:コネクティッド、A:自動運転、S:共有、E:電動化)によるモビリティ社会の変革は、タイヤメーカにも大きな影響を与えます。
例えばEV化により、自動車からエンジンの音が消えれば、タイヤ起因の振動・騒音が静粛性や快適性に与えるインパクトは今までになくクローズアップされます。
また自動運転が進めば、車室は「移動空間」だけではなく「居住空間」となり、パーソナライズされた「何かをする」空間としての意味合いが大きくなるでしょう。
快適性や静粛性への要求がさらに高まることが予想されます。
この問題を、TOYO TIREならではのユニークな発想と技術で解決することをを目指し、2016年から本格的な開発に着手、2018年に技術発表、そして2019年に商品化に漕ぎ着けたのが、この「Toyo Silent Technology」です。
TRIZ手法を活用して、基本コンセプトから商品化までの、一連の課題を解決
Toyo Silent Technologyの開発では、TRIZ手法による革新的な課題解決プロセスを活用して、初期コンセプトから事業化に至る様々な課題に取り組まれました。
- 対象課題の現象を把握し、何を叩く(解決する)かを探るためにTRIZのデバイス分析や根本原因分析を活用
- どのような原理で静音化を図るのが良いか、TRIZのシステム進化パターンや科学・工学的効果のデータベースを使って探索
- 基本的な原理を自社の課題に適用するためのアイデアを、TRIZのシステム進化パターンを使って発想
- そのアイデアを実際にモノとして実現する上での問題を、TRIZの発明原理やシステム進化パターンを使って解決
- さらに商品化する上での、コストや製造のし易さの問題を、TRIZでアイデアを出して組み合わせることで解決
この一連の開発を担当された、技術開発本部 先行技術開発部の榊原一泰様は、プロジェクトを振り返って、TRIZ活用の効果を次のようにコメントされています。
TRIZは、エンジニアが考えるべき、発想するべき着眼点が体系化されているのがいいですね。
課題解決のアイデアを出すところと、アイデアを実用化する上での問題解決の両方のフェーズでTRIZの考え方や発想方法は有効でした。コスト、製造上の問題など、商品化するための問題は沢山あります。社内の各部門やサプライヤさんの協力も不可欠でした。協力してもらうためには、課題の本質をそうした人たちと共有することが重要ですが、そこでもTRIZは助けになりました。
当初の「TOYO TIREならではのユニークな技術で、高い空洞共鳴音低減効果を得られる技術を開発する」という目標を達成できたのは、こうした様々な要因の積み重ねで、課題のブレークスルーができたからだと思います。
また榊原様は、先行技術を担当する開発エンジニアの現実と、イノベーションの取り組みとの関係について、次のように話されています。
現実には、どうしても目の前の業務に追われがちで、先を見据えた開発業務は後回しになりがちです。
しかし枠組みが整備されていれば、そうした現実の中でも必要なときにしっかり取り組むことができるだろう。そんな想いからイノベーション推進の枠組みをつくってきました。
榊原様に、TOYO TIREのイノベーション推進活動と、それがToyo Silent Technologyの開発にどう活かされたかについてお伺いしたインタビュー記事はこちらからご覧ください。
次回は、「自社の技術(材料)シーズと、未来の顧客ニーズを繋ぐ」という内容についてお話します。
本コラムでご紹介した内容をまとめたダウンロード資料を用意しました。是非ご覧ください。
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鹿倉@IDEA