タグチメソッドでばらつきを抑えて新しい技術コンセプトを具現化する:研究開発者のテーマ創出力と課題解決力を組織的に強化する(第8回)
こんにちは、IDEAの鹿倉です。
前回のコラムでは、TRIZ手法を活用した「革新的な課題解決のプロセス」をご紹介しました。
今回は、TRIZで創出した新しい課題解決策(技術コンセプト)を、高い信頼性を確保しながら具現化するためのタグチメソッド(品質工学)の活用についてお話しします。
本連載コラムの各回のテーマ
(リンクをクリックすると各回のコラムに移動します)
第1回 「Where/What/How」に、体系的アプローチで取り組む
第2回 アイデアを出し、課題を解決するための具体的なフレームワークが必要
第5回 シーズドリブンQD手法とGoldfireを活用して、新規事業機会を探索する
第6回 ターゲット用途で事業化を目指すためのニーズ分析・課題抽出
第8回 バラツキを抑えて新しい技術コンセプトを具現化
第10回 新規事業のターゲット用途の将来像(ニーズと課題)を予測する
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タグチメソッド(品質工学): 新しい技術でも高い信頼性を確保するロバスト設計手法
タグチメソッド(品質工学)のパラメータ設計は、製品が市場で不具合を起こさないように、その基本機能の安定性を、設計段階で確保しようとする設計手法です。製品の開発設計や生産技術の開発に活用されています。
製造時の工程条件の変動や、製品の経年変化、ユーザが製品を使用する条件や環境の違いなど、製品の機能に影響を与えるノイズ(要因)は様々です。
こうしたノイズは必ず存在します。それであれば、最初からノイズの存在を設計に取り込んで、ノイズがあっても安定して機能するように設計すれば良い。そんな”耐ノイズ性に優れた技術・製品設計”をする・・・それがタグチメソッドのパラメータ設計です(タグチメソッドのパラメータ設計についての詳細は、下記ダウンロード資料を参照ください)。
「タグチメソッドとは何か? どのような効果が期待できるのか︖」
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タグチメソッド(品質工学)を技術開発に適用するメリット
このタグチメソッドのパラメータ設計を適用することで、大きく3つのメリットが得られます。
- まず製品企画に先⾏して、技術の安定性をしっかり確保できるので、その後の製品開発段階における手戻りが減り開発期間を大幅に短縮できます
- 次に、開発された技術は、類似製品の開発にも広く応⽤できるので、組織全体としての開発⼯数を大きく削減できます
- そして、開発段階での品質の確認結果と市場での実使⽤の結果が⼀致するので、品質問題が⼤幅に改善され信頼性の向上につながります
TRIZとタグチメソッド(品質工学)の連携活用
断トツの製品や技術を目指してTRIZで革新的な課題解決策を創出したら、次はその新しい解決策(技術コンセプト)を具体的な設計に落とし込む必要があります。
しかしTRIZのようなイノベーション手法を駆使して、従来の延長線上にはない革新的な課題解決策(技術コンセプト)を創出した場合、多くのケースで、そのコンセプトは今まで経験のない目新しいものになります。開発者は、そんなノウハウの蓄積がない中で、革新的な技術コンセプトを信頼性の高い、ロバストな(堅牢な)技術として具現化していかなければなりません。
そこで有効なのが、TRIZとタグチメソッドの連携活用です(下図)。
タグチメソッドのパラメータ設計を活用すれば、ノウハウの蓄積のない革新的な技術コンセプトであっても、品質リスクを最小限に抑えて、合理的に信頼性の高い技術として具現化できます(もちろんTRIZを使わずに考えた技術案の具現化にも有効です)。
魅力的で革新的なヒット商品を生み出すための
QFD-TRIZ-タグチメソッド連携活用
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企業事例: 精密鍛造金型メーカ「ニチダイ」の自社技術を起点とする新商品開発の取り組み
株式会社ニチダイ様(https://www.nichidai.jp/)は、⻑年培ってきた精密鍛造技術を駆使して、研究開発から部品製造まで精密鍛造に関するトータルソリューションの提供を⾏っています。
主に、自動⾞部品づくりには⽋かせない冷間鍛造⾦型を国内外の自動⾞メーカーや部品メーカーに供給しています。
大変革期にある自動車業界において、ニチダイにしかないオンリーワンの技術・商品を開発したいという強い思いから、ここまでこの連載コラムで紹介してきた「シーズドリブンQD、QFD、TRIZ、タグチメソッド(品質工学)」の手法を活用した新商品開発プロセスに取り組まれました。当時の取り組みについて、弊社企業インタビューで、同社の伊藤直紀社長(取り組み当時は副社長)は次のように振り返られています。
大きく変化し続ける世界においても、ニチダイにしかないオンリーワンの技術を究め、変化に対応することにより、ニッチな分野であってもトップを走り続けたい、そんな思いが今回の取り組みの背景にありました。
現在の中期経営戦略で基本戦略として掲げている「既存事業の強靭化」と「次世代への挑戦(新規事業の立ち上げ)」への具体的な施策としての位置づけでもありました。
ニチダイのコア技術であるネットシェイプ技術は、切削による仕上げ後加工なしで最終製品形状を製作できるのが特長です。それにより、材料コスト低減、工程削減、機械加工レスといったメリットが生まれます。
今回の取り組みでは、厚みを薄くする工法である「圧延」と形状を作る工法である「鍛造」を組み合わせた、「圧延+鍛造」新工法のコンセプトを”起点(技術シーズ)”としました。
そしてこの新しいコンセプトの工法開発を推し進める上で、まず、新工法により、どのような新しい製品を生み出すことができるのか、どのような新しい事業を創出できるのかをしっかり考え、新工法開発の先にある市場への出口をきちんと見通そうと、シーズドリブンQDに取り組みました。
シーズドリブンQDで探索そして絞り込まれたターゲット用途について、QFDで、その用途におけるニーズの具体化と、ニチダイの技術で商品化したときの価値訴求点の絞り込み、その価値実現のために解決すべき重点課題の抽出を行いました。さらに技術課題についてはTRIZで、生産性や鍛造条件の最適化に関する問題はタグチメソッドで問題解決に取り組まれました。
シーズドリブンQD/QFDからTRIZ、タグチメソッドまでの一連の取り組みについて、プロジェクト担当の竹下和也様と、伊藤社長は次のように総括されています。
圧延と鍛造を組み合わせた新工法に対して,可能性のありそうな多くの用途を抽出できました。次にそれらの用途を絞り込む方法が明確になり,客観的に車載用電池ケースという用途を選択することができました。そして選択した用途の簡易的な品質表を作成することによって,車載用電池ケース市場での競争力・差別化ポイントが明確になりました。
車載用電池ケースを製品化するために必要な技術課題も明確になり、それらの技術課題については、TRIZやタグチメソッドなどの体系的手法を活用することで解決の道筋が見えました。
(竹下様)
今回IDEAさんのコンサルタントと取り組んだ、「シーズ→機能→用途→商品企画」というアプローチであれば,誰でも確実に新製品を開発できる可能性があります。
今後は、当社が持つ他の技術シーズにも展開して、それを通してこのやり方を社内に定着していければ良いと思っています。
(伊藤様)
株式会社ニチダイ様の導入企業インタビューはこちらから
今回は、i-Advanced TRIZのフレームワークの4番目のステップ「新しい課題解決策(技術コンセプト)を信頼性を確保しながら具現化するためのタグチメソッドの活用」についてご紹介しました。
次回は、テーマ創出にロジカルなステップで取り組むためのアプローチについてお話します。
鹿倉@アイデア
本連載コラムでご紹介した内容をまとめたダウンロード資料を用意しました。是非ご覧ください。