”機能”が、自社のシーズ(技術・材料)と、未来の顧客ニーズを繋ぐ:研究開発者のテーマ創出力と課題解決力を組織的に強化する(第4回)
こんにちは、IDEAの鹿倉です。
本連載コラムの第1回では、研究開発者の「テーマ創出」と「課題解決」の二つのスキルについて、個人依存を脱却して組織的に強化する取り組みとして、TRIZを核とする体系的開発手法が活用されていることを紹介しました。
第2回と第3回では、テーマ創出や課題解決のための「フレームワーク」がなぜ必要かについて、ステージゲート法などのテーマ管理手法や、15%カルチャー・20%ルールのような時間配分の仕組みとの関連でお話しました。
第4回となる今回からは、私たちの「i-Advanced TRIZのフレームワーク」のメソッドとツールについて、具体的に見ていきます。
本連載コラムの各回のテーマ
(リンクをクリックすると各回のコラムに移動します)
第1回 「Where/What/How」に、体系的アプローチで取り組む
第2回 アイデアを出し、課題を解決するための具体的なフレームワークが必要
第4回 自社の技術(材料)シーズと、未来の顧客ニーズを繋ぐ
第5回 シーズドリブンQD手法とGoldfireを活用して、新規事業機会を探索する
第6回 ターゲット用途で事業化を目指すためのニーズ分析・課題抽出
第10回 新規事業のターゲット用途の将来像(ニーズと課題)を予測する
目次[非表示]
本コラムでご紹介した内容をまとめたダウンロード資料を用意しました。是非ご覧ください。
テーマ探索(シーズドリブンQD):
自社技術(材料)シーズを活かせる、新規事業機会の探索(用途探索)
「i-Advanced TRIZのフレームワーク」の一番上流のステップは、「テーマ探索(シーズドリブンQD)」です(下図)。
「テーマ探索」は、研究開発や要素技術開発の初期に、用途探索や技術調査、ユーザ調査などをしながら、研究開発や技術開発のテーマを発想し、有望なテーマに絞り込んでいくプロセスです。
この段階は、未だ色々なことが、もやもや、ぼんやりしていて、まだまだ「視界不良」な状態といえます。「顧客が誰か」や「満たすべきニーズが何か」はもちろん、そもそも自社の技術の「どこが/何が競争優位の源泉となるのか」もはっきりとは分かっていない。そんな状態です。
体系的なアプローチを使って、それらひとつひとつを着実に明確にして「開発テーマ(コンセプト)」を創出するためのプロセス。それが「シーズドリブンQD」です。
”機能”が、自社の技術(材料)シーズと、未来の顧客ニーズを繋ぐ
i-Advanced TRIZの各プロセスでは、製品や技術、工程、そして顧客の行動や操作を、”機能”として表現し理解することを重視します。
テーマ探索(シーズドリブンQD)の段階では、”機能”は、自社のコア技術(やコア材料)と、未来の顧客(用途)とを繋ぐ「架け橋」になります。
”機能”が、技術(シーズ)と顧客(ニーズ)を繋ぐ「架け橋」になることを、身近な例で見てみましょう。
アウトドアやスポーツウェアに使われている「ゴアテックス素材」。
防水性と透湿性の双方に優れていて、雨や水は外から中へ通さない一方で、汗は水蒸気として中から外へ逃がすことができます。それにより、”濡れない、蒸れない”ウェアやシューズを実現する素材として知られています。
このゴアテックスは、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)というポリマーを急速に引き延ばすことで生まれた、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)という多孔質構造体からつくられているそうです。
ゴアテックスの技術の特徴は、この多孔質の孔の大きさを微細にコントロールできたことでした。
孔の大きさをコントロールできたことで、水滴は通さない(孔の大きさは、水滴のサイズの20,000分の1)、と同時に汗は水蒸気として外に排出する(孔の大きさは、水蒸気のサイズの700倍以上)、という当時としては画期的な機能を防水ウェアにもたらしました。
新たに開発した技術が、
「多孔質材の孔の大きさを微細にコントロールする」という機能をもたらし、
↓
今度はその機能が「水滴を通さない <and> 水蒸気を通す」という機能を生み、
↓
そしてその機能が「水滴は通さないが、水蒸気は通す」という背反する機能の両立を必要(ニーズ)としていた、アウトドア用品やアパレルメーカ、さらにそのユーザにとっての「従来の技術(素材)ではできなかった新たな価値」へと繋がっていきました。
もちろん、W.L.ゴア&アソシエイツ(ゴアテックスの会社です)は、私たちIDEAのクライアント企業ではありません。
創業者の息子ボブ・ゴア氏は、「PTFEを延伸できれば、含まれる空気量が増して、より軽量、柔軟で、低コストな材料ができる」と考えて取り組んだそうですが、そうやって生まれたePTFEが、その後どういう経緯で防水ウェアやシューズに適用されるに至ったか、そのアイデアはどのように生まれ、課題をどう解決していったかを、私たちは知る由もありません。
しかし、このePTFE技術からは、その後も様々な新しい機能が見い出され、新たな用途の新たな課題解決に適用されていったことは確かです。
私たちIDEAの「テーマ探索(シーズドリブンQD)」プロセスは、こうした、「自社技術や材料シーズを”機能”に展開し、その”機能”を介して、新しい用途、そしてその用途での新たな価値(課題の解決)に繋げる」を、個人のスキルやセンスに依存せずに、組織的に実践するための、体系的なアプローチとして生まれました。
テーマ探索(シーズドリブンQD)のプロセス
「テーマ探索(シーズドリブンQD)」のプロセスは、大きく分けて、上の図に示すような5つのステップから成ります。
- 自社が保有する技術(材料)の特徴、競合や代替技術と比較した強み・弱みを、”機能(とその達成の度合い)”の視点で客観的に把握する
- ”機能”で把握した強みを生かせる用途を、思い込みに縛られずに、業種や分野を超えて広く可能性を探索する
- 自社の事業戦略や技術戦略との適合性に基づいて、用途候補を絞り込む
- 絞り込んだ用途について、未来のニーズや課題についての仮説を立てる
- そこから未来のニーズに応えるための課題解決を、「技術開発テーマ」として抽出
ステップ1は、自社の技術シーズや材料シーズを、”機能(とその達成の度合い)”で考えることで、直接的な競合だけでなく、代替的な技術や材料とも客観的に比較して、強み、弱み、特徴を把握することができます。
ステップ2でも、やはり”機能(とその達成度合い)”の視点で用途を展開していきます。そのとき、”機能”をより一般化していくことで、思い込みに縛られず、用途候補のアイデアを幅広く出すことができます。
ステップ3で候補用途を絞り込んだとき、ステップ1の段階で自社技術の強み(と弱み)を客観的に把握しておけば、「なぜその用途で、自社の技術は勝てるのか?」という質問に合理的に答えることができるでしょう。
研究開発部門でのテーマ探索であれば、実際にその成果を市場に問うのは数年先というケースが多いでしょう。選んだ用途における、そうした未来のニーズ、未来の課題を考えるためには、「TRIZの9画面法」というアプローチを使って考えるのが有効です(「TRIZの9画面法」については、こちらのコラム記事をご覧ください)。
未来ニーズ(顧客課題)の仮説を立て、その仮説に基づいてユーザ調査や技術動向調査を行います。そして、仮説を検証・ブラッシュアップして、そのニーズを実現する上で、取り組まなければならない開発課題を抽出します。
この一連の「テーマ探索(シーズドリブンQD)」のプロセスでは、”機能”の切り口から様々な知識を検索できる「Goldfire」というツールが大活躍します。
次回の第5回のコラムでは、テーマ探索(シーズドリブンQD)プロセスと、このGoldfireの知識検索を活用したユーザ事例をご紹介します。
鹿倉@アイデア
※ゴアテックスに関する参考サイト
ゴアのテクノロジー | 日本ゴア合同会社 (gore.co.jp)
本コラムでご紹介した内容をまとめたダウンロード資料を用意しました。是非ご覧ください。
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