技術者のためのイラストレーション講座 ~基礎編~(5)
こんにちは、IDEAの笠井です。
これまでイラストレーション講座の基礎編として、パースによる立体の描画方法を説明してきました。今回はその最終回で、円(楕円)の描き方をお伝えします。具体的には、円形の代表的な立体物である円柱の作図を目標にして、説明を進めていきます。
【ステップⅣ】-円柱を正しく描く-
《円をパースで描く》
円の作図を考えるときも、立方体をイメージしながら進めていきます。先ずは立方体の面(正方形)に内接する円を描いてみます。下の左図のとおり、円の中心点は正方形の対角線の交点と一致します。そして円周が正方形の各辺の中点で接することはよくご存じですね?
立方体をパースで描くと立方体の各面は変形し、それに伴って内接する円はつぶれて楕円(右図)になります。楕円は、パースで描かれた立方体の各辺の中点で接するように作図します。そうすると楕円の短軸は傾いて、立方体と同じ消失点に向かうのが分かると思います。ただし、立方体の上面にある楕円の場合は縦方向に縮むだけで傾かず、短軸は垂直になります。
文章では分かりにくいと思いますので、以下に図で説明します。
①図~③図は、手前から見える3つの面に内接する円を描いたものです。それぞれの楕円の中心点は各面の対角線の交点にあり、楕円の周は3つの面の各辺の中点で接しています。そして、①図と②図の楕円の短軸は、それぞれ左右の消失点に向かっていることが大事なポイントです。③図は、3点透視で描かれているので消失点が垂直下方にあり、楕円の短軸も垂直になっています。つまり、円が変形してできた楕円の短軸は、必ず消失点に向かうということなのです。
下の図は、楕円の短軸が消失点に向かう、ということを視覚的に説明したものです。4つ並んだ立方体に描かれた楕円の短軸がそれぞれ右の消失点に向かっています。そして、楕円が奥に行くに従って少しずつ短軸の傾きが緩くなっていることがお分かりいただけると思います。楕円の中心で短軸に直交しているのが長軸です。
立方体の左右の面にある円をパースで描く方法をまとめると、以下のようになります。
- 面の中心点(対角線の交点)Pを求める
- 面と反対側の消失点と、中心点Pを結ぶ直線を引く。この直線が、楕円の短軸の位置にあたる
- 中心点Pをとおって短軸と直交する線が、長軸の位置にあたる。短軸と長軸の位置を目安にして、面の四辺の中点で内接する楕円を描く
いかがですか? 「何だかややこしいけど、何となく分かった」と思われる方が多いかもしれませんね? 実際に自分で描いて確認していただけると良く分かると思います。
下の手描きイラストをご覧ください。これは、厚みのあるクリスタルガラス製の置時計を想像しながら描いたものです。
左のA図とB図は、同じ形のベースに円形の文字盤が嵌められたものを描きました。AとBのどちらの文字盤が正しい円(楕円)に見えますか? 実は、企業でアイデア発想を行う際、立体上の円や円柱をAのように描かれる方がとても多いです。私としては、Bの方が正しく描かれていると言ってほしいのですが、いかがでしょうか?
AとBの楕円の違いを説明するために、右側にそれらをコピーしてA’、B’としました。そして、楕円で描いた文字盤の上に、短軸と長軸を赤線で描き足しました。楕円の短軸は消失点に向かうとご説明してきましたが、いかがですか? B’の方は楕円が傾いていて、短軸がほぼ消失点に向かっていますね? 完全に一致していないのは、私の作図のマズさに起因していますが、頭で想像したイメージを描き表わすには、このくらいラフなものでも充分だと思います。
さぁ、円(楕円)をパースで描く基本が理解できたら、あとはもう簡単です。
《円柱の表現》
円(楕円)の応用として、円柱をパースで描く方法を説明します。円柱の描き方には大きく分けて、立っている場合と寝ている場合の2種類があります。いずれの場合でも、考え方は立方体をパースで作図するのと同じです。
先ずは、平面上に立っている円柱の描き方です。これは、円(楕円)が立方体の上面にある場合の応用です。下図をご覧ください。左から作図の順に示してあります。
- 立方体を描くときに、下面の見えない辺もパースで描いておく。下面の対角線の交点と短軸が一致するように、上面に内接する楕円を描く
- 下面に内接する楕円を描く
- 上下の楕円を接線でつなぐ
- 下の楕円に描かれている輪郭線の、見えない部分を消して円柱を完成させる
初めに④図を見ると分かりにくいかもしれませんが、上面と下面の楕円の膨らみ具合が違うことを理解していただけると思います。これが平面上に立っている円柱の基本的な描き方です。
つぎに、寝ている(横になっている)円柱の描き方です。もうお分かりのように、立方体の側面と、向かい側の側面に内接する楕円を描いてから、それらを接線でつなぐだけです。立っている場合と同じように、下の①図から④図の順で作図していきます。
立っている場合と異なるのは、楕円の大きさが変わることです。手前側と奥側の側面のそれぞれに内接する楕円はパースに従っているため、奥側の楕円が小さくなります。そして、短軸をつなぐ中心線は、奥側の消失点に向かっています。
以上が、パースの基本に則って円(楕円)と円柱を作図する方法です。
それでは皆さん、これまでにご説明してきた立体の描き方を振り返りながら、身の周りにあるものを想像して描いてみませんか? 参考までに、以下に私が付箋紙に作図した例を示したいと思います。
【キッチンペーパーホルダの操作性改善】
家庭用キッチンペーパーホルダには、様々な種類があります。下の写真は製品の一例ですが、その使い勝手の改善を課題として、発明原理からひらめいたアイデアを描いてみました。
思いついた機構などを文章だけで説明するより、下に示したように、パースで表現したイラストに簡単なコメントを付ける方が描いたひとの意図が正しく伝わるし、印象にも残ると思いますが、いかがでしょうか?
これで、『技術者のためのイラストレーション講座 ~基礎編~』の連載は終わりです。次の機会には“応用編”として、より具体的なイラストレーションの描き方をお伝えしたいと思います。
笠井@IDEA